ちんちんの銀行
2030年。
世界は大きく変わり、通貨がちんちんになっていた。
「ということですので、今回のご融資はお見送りさせていただくということで、はい、またご縁がありましたらぜひ、はい、失礼いたします⋯⋯」
ちんちんの銀行サポートセンターに勤めるミカは、主に消費者チン融で弾かれた人間からの電話を受けている。
「はー、サラチン3件とクレカ2枚のキャッシング枠使い切ってる奴が申し込んで来るんじゃねぇよ、まったく⋯⋯」
この国には総量規制という、年収の3分の1以上のちんちんを貸してはいけないという決まりがあるのだが、ちんちんの銀行だけは対象外であるため、最後の望みをかけて申し込んでくる人間が多いのだ。
「さっきの人、これからどうするんだろうか⋯⋯」
怒りが収まり落ち着きを取り戻したミカは、客の今後について考えていた。
最後の砦であるちんちんの銀行に融資を断られた人間は、最悪の行動に出ることも少なくはない。
そう、闇チンである。
闇チンとは、ちんちんのブラックリスト(ちんブラ)に登録されていて誰からもちんちんを借りられない人間に対し、無担保(実際は分からないが)でちんちんを貸し付ける業者のことである。
これだけ聞くと優しいアンパンマンのような業者に思えるが、そんな甘い話があるわけはなく、法外な利息を請求されることがほぼ決まっている。
トイチという有名な言葉があるが、これは闇チンの用語である。10日ごとに1本のちんちんを供えなければならず、もし怠ったらその瞬間に天罰が下り、今後一切神の御加護を受けられなくなるという。
質屋で自分のチンポを担保にチンポを借りるという手もあるが、ここまで来ている人間のほとんどはすでに通った道であり、ちんちんの銀行に申し込んでくるような人間はちんちんがついていないことも多いのだ。
「あーこいつもダメだな。電話かけんのめんどくせ〜」
多重債務者ではなかったが、1年前にチン融事故を起こしていた。
「そうですね、お見送りさせていただくことに⋯⋯はい、どうしてもですね⋯⋯はい⋯⋯最悪、お家を担保に借りるという手も⋯⋯あ、チン貸ですか⋯⋯」
『もういいです⋯⋯ありがとうございました』ガチャ
「お客様――」
こんなふうに途中で切ってしまう客も少なくはない。
「大丈夫かな今の人⋯⋯」
先程の客・ムカは部屋で1人、考えていた。
「どうしよう⋯⋯もう、闇チンしか⋯⋯!」
その時だった。
突如部屋が白く輝き出し、立派な真っ白い髭をたくわえた、白いローブを着た男性が現れた。
「あなたは、もしや⋯⋯」
「そうじゃ、ちんちんの神様じゃよ」
「やっぱり! ということは、僕を助けてくれるんですね!?」
「まあ待て。ワシには直接ちんちんを貸してやるということは出来んのじゃ。じゃから、ヌシの進むべき道を示してやろうぞ」
「お願いします!」
「闇チンに行くがよい」
「えっ?」
「闇チンに行くがよい。さすればちんちんが手に入る⋯⋯さらばじゃ」
そう言ってちんちんの神様は消えた。
「ズボンとパンツを脱いでください」
強面の男に指示された通り、ズボンとパンツを脱ぐムカ。
「立派なちんちん持ってんじゃないですか。質屋で借りようとは思わなかったんですか?」
ムカのちんちんを引っ張ったり戻したりしながら強面の男が言った。
「端ちんちんじゃダメなんです。せめて500ちんちんはないと⋯⋯」
「500ちんちんっすか!? さすがに闇チンの俺らでも、初めましてのあなたにいきなり500ちんちんは貸せませんよ?」
「ええっ!? そんなの聞いてないですよ! 闇チンならいくらでも貸してくれるってちんちんの神様も言ってたのに!!!」
「いや、そんなこと言われてもねぇ。ていうか、ちんちんの神様ってなんなんですか」
「ちんちんの神様って言うのは⋯⋯」
その瞬間、そこの水溜まりが白く光り出し、中からちんちんの神様が現れた。
「言ってないよ」
それだけ言って神様はどこかへ飛んで行った。
「今のがちんちんの神様です」
「いや、それはまあ分かったんですけど、『言ってない』って言ってましたよね」
「言ってましたね。僕どうすればいいんですかね」
「とりあえず今の時点で俺らが貸せるのは10ちんちんまでですね」
「えっ!? 全然足りないじゃないですか! もう他の闇チン行っちゃいますよ? いいんですか?」
「そう言われてもねぇ⋯⋯こっちも商売なんで、無担保だと初回は10ちんちんまでって決めてるんですよ」
「無担保じゃなかったら?」
「モノにもよりますけど、500出せないこともないです」
「臓器とか、ですか?」
「まあそうなりますね。最初からあんまりそういうことは言えないんですけど、そうです」
「なんだ、じゃあ簡単じゃないですか。もし返せなかったら僕のこと空っぽにしてもいいんで、500ちんちん貸してくださいよ。ていうか、いつまでちんちん引っ張ったり戻したりしてるんですか! いい加減にあっ⋯⋯あっ⋯⋯あっ⋯⋯あふぅ⋯⋯ふぅ⋯⋯」
「⋯⋯交渉決裂ですね。他を当たってください。ちなみに、どこ行ってもあなた1人で500ちんちんは無理ですよ。あなたの他に4人は用意しないと」
「そんなぁ⋯⋯!」
しなびたちんちんのまま帰宅したムカは考えた。
「闇チンのおっさん、怖かったなぁ⋯⋯」
その瞬間、突如(以下略
「ちんちんの神様!」
「困っとるようじゃの」
「もう神様しか頼れません! どうか僕に500ちんちん貸してください!」
ちんちんの神様は困ったような顔をして口を開いた。
「さっきも言った通り、ワシには出来んのじゃ⋯⋯すまんの」
「じゃあ、僕の臓器を4つずつ増やしてください!」
「いいよ」
「えっ!? そういうのって出来ないんじゃ⋯⋯」
「いや、ちんちん貸し以外ならなんでも出来るよ」
「ちんちんの神様って名前なのに!?」
「んで、4つずつ増やしてもいいんだけどヌシ、100%死ぬぞ」
「じゃあ、阿修羅みたいに体や顔ごと増やしてください」
「腕に臓器はないが」
「体と顔だけ増えてもキモイだけなんで、手足も増やしてください」
「⋯⋯分かった」
こうしてムカは五面の阿修羅となり、無事500ちんちんを借りることが出来た。
「よし、さっそく幸運の壺を買いに行こう!」
500ちんちんでダサい柄の壺を手に入れた五面の阿修羅は「なんか幸せになった気がする」が口癖になり、周りから避けられるようになったのであった。
めでたしめでたし。