少年
わたしらしくもなくソファーでダラダラとアイスを食べていると、例の少年が隣に座ってきた。
「君が運んできたのか?」
わたしの率直な疑問に、少年は答えなかった。ただ、棒状アイスの片割れを差し出すと彼は受け取ってそれを口に運ぶのであった。それを見てガキはガキだなと、ならば同じアイスを分けたわたしはでかいガキだなと元々一つだったそのアイスを黙って頬張ったのだった。
「きみはこのままでいいの?」
今、わたしは幸福だ。だが、人間は飽きる生き物だ。特に幸福は、すぐに味が無くなるものだ。
「...いずれかは、変化を求めるだろうな。人間は、飽きがくれば自ずと狂うものだ。」
わたしはそういう人間を、見たことがあるし、自分だってそうなるという確証がある。
「きみは聡明だ。何故、夢に執着する?」
「バカを言え。聡明な人間は自分の知ったことで夢が消え去る苦痛を乗り越えるものだ。」
そして乗り越えられなかったものは、それを忘れようとするものだ。わたしはそれを身をもって知っている。
「少年、貴様が何なのかわたしには皆目見当もつかん。だがアイスを分けた仲だ。回りくどい質問より、核心に迫ったことを聞いたらどうだ?」
あぁ、思っていたことが聞けてせいせいした。わたしが佐伯や妹以外とこんなに会話が続いたのは面接官以来だろう。少年は満足そうに口の端をあげて答えた。
「鋭いね。やはりきみは聡明だ。いや、きみは狡猾と言った方が喜ぶかな。」
これで何かが分かるとも思っていなかったが、わたしはますます少年の目的が分からなくなっただけだった。しかし少年の言う通り、狡猾と呼ばれる方がわたしは好みだ。わたしは素直に
「そうだな。」
とだけ答えた。
ジリジリと暑い熱気が地面に照り付ける。もはや清々しいほど綺麗に見える陽炎を見ながら、俺はあいつの家から徒歩で帰るところだった。
「...あちー...。」
しかし、夢に現れる謎の少年、俺が電話越しに聞いた少年の声、オカルト的には同一人物視して良いだろう。しかしあの少年、本当に何なんだ...?