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夢の楽園  作者: 狗ろA夏
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水の流れ

雨水溝に落ちたはずのわたしは、いつの間にか広く開けた下水道のような場所にいた。ザバザバと緩やかな音と共に、激しく水を叩きつけるような音が聞こえてくる。水面を叩く音は次第に近くなり、そしてわたしは網ですくい上げられたのだった。網の端からだらりと腕が垂れ、そこでようやく自分が人間に戻ったことを知った。網の主はわたしを見るやいなや、

「ニャーーーーゴ!!」

と歓喜の声をあげる。不思議と、その網の主が黒くて人間以上に大きな猫で、オマケに二足歩行をしているということには疑問を抱かなかった。そんなことより、濡れた体がとにかく寒かった。その猫は、わたしを網に入れたまま、担いでどこかへと向かっているようだった。のしのしと一定の周期で揺れる網は、意外と居心地が良かった。

しばらく網と揺られていると、開けた場所に着いた。天井がなく、地上から見て少し窪んだその場所は、さしずめ屋根のない竪穴式住居のようだった。猫は、わたしを焚き木の前へ下ろした。

「ありがとう。」

わたしは自然と、言葉も通じぬ猫に、礼を言っていた。

「ニャ!」

猫は、わたしに何かを差し出した。見たところ、火を通された肉のように見える。途端に空腹を感じ、何かも分からないその肉にかじりついた。味は、鶏肉のようななにかだった。わたしはその肉を食べ終わる頃にはもううとうとしていた。ほぼ無意識に、幸せとはこういうものなのだろうかと疑問に思った。

「ねえ。」

また、少年の声が響く。

「黒猫がきみを助けたのは、愛だと思う?」

そんなこと、わたしには知り得ない。猫には、本来人間ほど複雑な感情はない。

「さあな、太らせて食うつもりだったかもしれない。が、助かったのは事実だ。」

少年は真っ直ぐにこちらを見据え、水の中へ消えていった。


わたしは、自宅の浴槽の中で現実へ戻ってきた。すっかり冷めた浴槽から這い出て、シャワーを浴びる。風呂場のデジタル時計は、午前2時を指していた。

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