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夢の楽園  作者: 狗ろA夏
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日常の乖離

わたしは、階段を進んだ。宇宙だ。わたしはそこに立っている。

「ねえ。」

「きみはぼくのことがきらい?」

きみ?きみとはわたしのことだろうか?

「わたしは...」

突然、大きな破裂音が耳元で響く。それは、わたしの答えを否定したのだろうか。気付けば、辺りは人でごった返していた。たくさんの音、たくさんの動き。

「...あ。」

しかし人々は、わたしを透過しているのだ。誰もわたしが見えない、誰もわたしを触れられない。それは、わたしもまた同じように誰にも干渉しなかったからだろうか。


わたしは、目を覚ました。全て夢だったのだ。目を覚ませば、やがて忘れる。ここへ書き連ねたこの出来事も、その一部でしかないのだ。

そして本来、夢の内容を書き留めるのは良いこととは言えない。では何故、わたしはそんな事をするのか。

現実のことなど考えたくないからである。夢の中へ閉じ込められて、外へなど出たくないからである。夢、なんと甘美な響き!夢、夢こそ至高!これが、たったこれだけがわたしのモットーである。

今のわたしは、夢に取り憑かれているのだろう。昔の私は、そこらにいる園児やらと同じようにダンゴムシやらが丸まっただけで手を叩き、丸やら三角やらを描いただけでそこらの人間に見せつけ、毎日楽しく生きられたものだ。

だが、この事実に悲嘆などしていない。わたしはより質の良い幸福へ向かっているだけなのだから。

水を差すようにインターホンが鳴った。立ち上がり、一歩足を踏み出して、下へ落ちた。


あぁ、訳が分からない。わたしはどの感情から処理すればいいのか。これは夢か?無傷の体、辺りに広がる自然、落ちてきたはずの上には快晴の空。仮に今これが夢なのならば、わたしは遂に明晰夢を体得したことになるが。

わたしにはにわかに信じられないのだ。さっきまで散々夢から覚めて夢の内容を忘れていくなどと喚き、インターホンに応じれば落下してこのザマだ。仮に夢なら未だかつて無いほどに精巧な夢を見ていることになる。仮にこれが現実なのであれば、私は遂に薬をキメたのかもしれない。

聡明なわたしがたどり着いた答えは至ってシンプルだった。睡眠である。機械などが再起動して何とかなるように、わたしの脳も再起動すれば良い。ではおやすみ。


「意欲せよ、彼の地で創造せよ。さすればその地は汝の楽園とならん。」

頭に、天啓とも思える声が響く。非常にやかましい。そして何とも厚かましい指示である。こういった天の声の類は信じないようにしている。特に人の睡眠を邪魔するものは皆邪神である。

次に目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。無事に現実へ帰ってくることが出来たのだろうか。そもそもあれは本当に夢だったのだろうか。それにわたしの家のインターホンがなる時は宗教勧誘だけだ。

今考えればあまり懸命な判断では無かったが、わたしはこの出来事をとある知人に話したのだ。

「...ッだから!!わたしは...」

「落ち着けって、そもそもわざわざ俺に話すってお前...友達とかいねーの?」

死ね。図星だが死ね。貴様を選んだのは確かに私だが死ね。

「つーか、それを俺に話されたって俺はなんにも出来ねーぞ。」

「あぁ確かに。気が動転していた。切る。」

「えちょっ」

ガチャッとやや強めに家電を置いた。わたしは自分のことを昔から完璧では無いがよくできた人間だと思っている。が、盲点だった。わたしには友人と呼べるものがいない。あえてはっきり言おう、泣きそうだ。何故家族に話さないのかというものがいるだろうが、わたしの家族はビジネスの関係かと言うくらいドライだ。仕送りも連絡もへったくれも無い。ただ、不思議なことに仲が悪いという訳ではないのだ。だからこんなつまらん相談などしない。

「ハァ...。」

大きなため息を着きながらベッドへ倒れ込む。頭から着地してしまい、まだ頭がくらくらとする。そのまま私は目を閉じることにした。いろいろあったが、やはり現実などクソだ。

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