表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/128

セシリア①

「復讐、か」


響いたスズメの言葉。

それを噛み締め、ゼウスは天を見上げた。

空は晴れ、青空が広がる。

しかし、ゼウスの心は晴れない。


そして思い出す、セシリアの面影。


"「見て見てッ、ゼウス!! わたしの加護ッ、こんなこともできるようになったんだ!!」"


新たに目覚めた加護の力ーー創造。

それに明るく笑い、真紅を纏いし聖剣を振るった在りし日のセシリア。


"「やっぱり勇者はこうじゃなくっちゃね。世界を救うっていう使命ッ、その過程の成長で色々な加護に目覚める!! 言われた通りッ、わたしに加護をくれたあの人の言う通りだった!!」"


自身の成長。

それに喜び、セシリアは希望に満ちた表情をその顔に浮かべていた。

その姿は紛れもなく、これから世界を救う勇者モノの姿だった。


「本来であるなら」


ゼウスの口。

そこから漏れる、言葉。


「アレンもまたセシリアと同じように、己の成長。それと共にあらゆる加護に目覚めるべきだった」


「うむ。じゃが、それは叶わなかった」


「暗く重い負の感情。それによってアレンさんは加護に目覚めていった」


響く、ブライとスズメの声。

それに拳を握り、虚しさに包まれるゼウス。


「もう少しはやく。俺たちが気づいていたら」


アレンとその故郷を救えたかもしれない。

紡がれんとしたゼウスのその言葉。


だが、それを遮ったのは轟音と閃光。

曰くそれは、落雷。


そして、その後に続く声。


「王都。壊滅。アレン。生きてる」


その声は無機質。


「それに。まだ、居る。邪魔な奴。たくさん居る」


金色の髪。

琥珀色の双眸。

それはまさしく、雷が少女のカタチをとったかのよう。


焦げた草。

その中で佇み、アレンたちを見据える少女。

ぱちぱちと白い光を爆させる、少女の身。

それは、その身が人の身ではないことを意味していた。


吹き抜ける、微かな刺激を含んだ風。

静電気。まるでそれを帯びたかのような風。

それが、アレンを含む五人の身を包む。


だが、動じない。


「ふぅ、アレンくん。誰か来たみたいだね」


呟き、アレンを抱擁から解くセシリア。

その顔はあの頃の笑顔そのもの。


「アレンくん。少し、休んでて。ここはお姉さんが、話をつけてくるから」


セシリアの言葉。

それにアレンは、視線を己の足元に落とす。


だが、そこへ。


「話をつける? 貴女如きに」


アレンとセシリアの会話。

それを空気の振動をもって聞き響く、少女の声。

揺らめく金色の髪。光の宿っていく琥珀色の瞳。

それはまるで、雷雲の中で蠢く稲光そのもの。


「わたし如きで不満?」


少女の声。

それに向き直って一歩を踏み出し、微笑むセシリア。


「うん。不満。勇者アレン以外。有象無象」


「聞いた? みんな。アレンくん以外、有象無象だってさ」


少女の感情なき言葉。

それを聞き、しかしセシリアは少女を見据えたまま余裕を崩さない。


「セシリアさん。お助けは必要でございましょうか?」


「ううん、大丈夫。ゼウスとブライも、ここは私に任せてくれない?」


「うむ。そう仰るのでしたら」


「セシリア」


「うん?」


「負けるなよ」


ゼウスのその言葉。

それに、セシリアは応える。


赤のオーラ。

それをたぎらせーー


「アレンくんが見てるんだもん。あの程度の雷の加護にお姉さんが負けるわけないでしょ?」


優しく声を響かせ、セシリアはアレンを仰ぎ見、ウインクをした。

そこには、アレンを元気づけようとするセシリアの意思が確かに宿っている。


セシリアの意思。

それに、アレンもまた力を行使しようとした。


「全盛期の」


加護。


だが、それをセシリアは制する。


「アレンくん、大丈夫。ここはお姉さんに一から十まで任せて」


「……」


「ほら、アレンくん。また瞳に闇が宿ってる。加護を使う度、強くなっていく度、加護に目覚める度。アレンくんは蝕まれていってる。負の感情。それが、増幅されてるの。お姉さんが言うんだから間違いない」


セシリアの言葉。

それに加護を抑え、瞳に光を戻すアレン。

そのアレンの身。

それに寄り添う、セシリアの三人の仲間たち。


「アレンさん。ここはセシリアさんにお任せを」


「そうじゃ。アレン殿」


「セシリアは今でも強いからよ。安心しろって」


「……」


響く三人の声。

それにアレンは、静かに頷き応える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ