セシリア①
「復讐、か」
響いたスズメの言葉。
それを噛み締め、ゼウスは天を見上げた。
空は晴れ、青空が広がる。
しかし、ゼウスの心は晴れない。
そして思い出す、セシリアの面影。
"「見て見てッ、ゼウス!! わたしの加護ッ、こんなこともできるようになったんだ!!」"
新たに目覚めた加護の力ーー創造。
それに明るく笑い、真紅を纏いし聖剣を振るった在りし日のセシリア。
"「やっぱり勇者はこうじゃなくっちゃね。世界を救うっていう使命ッ、その過程の成長で色々な加護に目覚める!! 言われた通りッ、わたしに加護をくれたあの人の言う通りだった!!」"
自身の成長。
それに喜び、セシリアは希望に満ちた表情をその顔に浮かべていた。
その姿は紛れもなく、これから世界を救う勇者の姿だった。
「本来であるなら」
ゼウスの口。
そこから漏れる、言葉。
「アレンもまたセシリアと同じように、己の成長。それと共にあらゆる加護に目覚めるべきだった」
「うむ。じゃが、それは叶わなかった」
「暗く重い負の感情。それによってアレンさんは加護に目覚めていった」
響く、ブライとスズメの声。
それに拳を握り、虚しさに包まれるゼウス。
「もう少しはやく。俺たちが気づいていたら」
アレンとその故郷を救えたかもしれない。
紡がれんとしたゼウスのその言葉。
だが、それを遮ったのは轟音と閃光。
曰くそれは、落雷。
そして、その後に続く声。
「王都。壊滅。アレン。生きてる」
その声は無機質。
「それに。まだ、居る。邪魔な奴。たくさん居る」
金色の髪。
琥珀色の双眸。
それはまさしく、雷が少女のカタチをとったかのよう。
焦げた草。
その中で佇み、アレンたちを見据える少女。
ぱちぱちと白い光を爆させる、少女の身。
それは、その身が人の身ではないことを意味していた。
吹き抜ける、微かな刺激を含んだ風。
静電気。まるでそれを帯びたかのような風。
それが、アレンを含む五人の身を包む。
だが、動じない。
「ふぅ、アレンくん。誰か来たみたいだね」
呟き、アレンを抱擁から解くセシリア。
その顔はあの頃の笑顔そのもの。
「アレンくん。少し、休んでて。ここはお姉さんが、話をつけてくるから」
セシリアの言葉。
それにアレンは、視線を己の足元に落とす。
だが、そこへ。
「話をつける? 貴女如きに」
アレンとセシリアの会話。
それを空気の振動をもって聞き響く、少女の声。
揺らめく金色の髪。光の宿っていく琥珀色の瞳。
それはまるで、雷雲の中で蠢く稲光そのもの。
「わたし如きで不満?」
少女の声。
それに向き直って一歩を踏み出し、微笑むセシリア。
「うん。不満。勇者以外。有象無象」
「聞いた? みんな。アレンくん以外、有象無象だってさ」
少女の感情なき言葉。
それを聞き、しかしセシリアは少女を見据えたまま余裕を崩さない。
「セシリアさん。お助けは必要でございましょうか?」
「ううん、大丈夫。ゼウスとブライも、ここは私に任せてくれない?」
「うむ。そう仰るのでしたら」
「セシリア」
「うん?」
「負けるなよ」
ゼウスのその言葉。
それに、セシリアは応える。
赤のオーラ。
それをたぎらせーー
「アレンくんが見てるんだもん。あの程度の雷の加護にお姉さんが負けるわけないでしょ?」
優しく声を響かせ、セシリアはアレンを仰ぎ見、ウインクをした。
そこには、アレンを元気づけようとするセシリアの意思が確かに宿っている。
セシリアの意思。
それに、アレンもまた力を行使しようとした。
「全盛期の」
加護。
だが、それをセシリアは制する。
「アレンくん、大丈夫。ここはお姉さんに一から十まで任せて」
「……」
「ほら、アレンくん。また瞳に闇が宿ってる。加護を使う度、強くなっていく度、加護に目覚める度。アレンくんは蝕まれていってる。負の感情。それが、増幅されてるの。お姉さんが言うんだから間違いない」
セシリアの言葉。
それに加護を抑え、瞳に光を戻すアレン。
そのアレンの身。
それに寄り添う、セシリアの三人の仲間たち。
「アレンさん。ここはセシリアさんにお任せを」
「そうじゃ。アレン殿」
「セシリアは今でも強いからよ。安心しろって」
「……」
響く三人の声。
それにアレンは、静かに頷き応える。




