歴代勇者⑥
「アレンくん」
真剣な眼差し。
それをもってアレンを見据え、アレンの両肩に手を載せるセシリア。
そして、続けた。
「かつての勇者として。わたしは、アレンくんのことがとても気になる。勇者の加護。それをわたしから受け継いで、それで貴方は勇者になった」
優しく語りかけるようなセシリアの口調。
それはまるで、母が子に本を読むかのように柔らかくすっとアレンの耳に入っていく。
加えて、セシリアのアレンを思う気持ち。それに彩られた表情に、アレンはセシリアの言葉の続きを遮ることなく静かに待つ。
セシリアの加護。
それに包まれた微かに赤みがかった空間。
その中で、向かい合う元勇者とアレン。
その光景。
それを、仲間たちも見守る。
「でも、それが。わたしがアレンくんを勇者をしてしまったことで、アレンくんはとても苦しんだ。勇者にさえならなかったら、アレンくんはあの村で。ソフィちゃんとずっと一緒に幸せに過ごせたかもしれない」
響く、セシリアの声。
それにアレンは、首を横に振る。
そして、声をこぼす。
「違う。セシリアさんのせいなんかじゃない」
セシリアの潤んだ瞳。
それにアレンもまた瞳を潤ませ、更に続ける。
「あの時、嬉しかった。セシリアさんが、俺に。勇者の素質があるって言ってくれて。それで、村のみんなも。ソフィも、とても、とても。喜んで、くれて。それで、それで。世界を救って。セシリアさんにありがとうって」
「お願い。泣かないで、アレンくん。わたしまで……泣いちゃうから」
アレンを抱きしめ、唇を噛み締めたセシリア。
そのセシリアの温かさ。
それに、アレンは嗚咽と共に涙を溢れさせる。
その光景。
それを儚い表情で見据え、仲間たちは静かに声を漏らしていく。
「悲しきこと。このブライが思うに、アレン殿があそこまでの加護を操れることになったのは……復讐。その心がその糧となったのではありませぬか?」
「えぇ。わたくしもそう思いますわ。セシリアさんから引き継いだ加護。それを揺るぎない復讐の心をもって上の段階へと昇華し、思ったままの加護を発現させた。そして」
「歴代の勇者が世界に施していた加護。それを、解除したってことか」
「うむ。そう考えれば、矛盾はありませぬな。しかし、驚きましたな」
「なにがだ?」
問い返す、ゼウス。
「アレン殿にいくら勇者の素質があったとはいえ、あそこまでの力を操れるようになるとは」
そのブライの言葉。
それに、スズメは答える。
セシリアとアレンの姿。
それを感情のこもった眼差しで見据えながらーー
「復讐。アレンさんが抱いたその心。それは、人であるなら誰しも持つ感情。そしてそれは、一度でも抱いてしまうと木の根のように根深くその人の心にすくってしまう。一度、世界を救ってみせると決意した者でさえ……それには抗えなかった」
そう声を響かせ、スズメもまたその瞳を涙で潤ませたのであった。




