歴代勇者③
そんな魔物たちの姿。
その不安と緊張。
それを、アレンとガレアは遮った。
「解消の加護」
響く、アレンの声。
それにより、魔物たちの不安と緊張が解消されその顔に勢いが戻っていく。
更にガレアの姿を見定め、魔物たちは益々勢いを増す。
すると勢いに任せ、轟く魔物たちの声。
「魔王様と勇者様が現れたからにはッ、あんたはおしまいだ!!」
「セシリアとか言ったか!? 謝るなら今のうちだぞ!!」
「魔王城に単身で乗り込んでくるとはッ、命が惜しくないようだな!!」
「教えて? ふんッ、我らの恐ろしさを存分に教えてやる!!」
一瞬にして変わった空気。
セシリアはそれを肌で感じ、なぜか頬を紅潮させる。
そしてゆっくりと、「解消の加護」と聞こえた方向に視線を向けていく。
立ち上がらず、仰ぎ見る格好で。
刹那。
「アレンくんッ、アレンくんだよね!?」
「大きくなったねッ、うん!! わたし!! わたしのこと覚えてる!? セシリアッ、ほら!! あの村で君の頭を撫でたあのお姉さんだよ!!」
「すっごく大きくなって!! 逞しくなってッ、お姉さんッ、嬉しいぞ!!」
アレンを見定めた、セシリアの興奮声。
それが矢継ぎ早に響き、魔物たちは目を点にしてしまう。
だが、セシリアは止まらない。
無駄のない動き。
それをもって立ち上がり、食い入るようにアレンを見つめるセシリア。瞳を輝かせ、まるで往年の親友に出会ったかのような反応をさらけ出して。
「アレンくん。お姉さんのこと覚えてる?」
一歩、前に踏み出しセシリアはアレンへと問いかける。
「解消の加護。ふふふ。そんな加護も使えるようになったんだね。嬉しいな。下手をすれば、私の全盛期より強いのかな? ところでさ、アレンくん」
二歩。
そこで足を止め、セシリアはガレアに視線を固定した。
そして、明るく声を響かせる。
「そのモノが今回の魔王?」
顔は笑っている。
しかし、その声音はどこか冷たい。
「魔王だよね。だって、この状況でアレンくんの側に立っているんだもの。ふーん……今回の魔王は性別でいうところの女なんだ。ふーん、そうなんだ。で、アレンくん」
三歩。
再び足を踏み締めーー
「みんなから聞いたんだけどさ。世界にかかってる勇者の加護を解除したって本当? それに、結界まで……お姉さん、理由によってはとても悲しくなっちゃうよ」
セシリアは優しく。それでいて悲しげに、アレンへと言葉を投げかける。
そんなセシリアへと、アレンもまた近づいていく。
一歩、二歩、三歩。
セシリアと同じ歩数。
そこで足を止め、アレンは声を響かせた。
「セシリアさん」
痛む、頭。
それを堪え、続けるアレン。
"「君、勇者になれる素質があるよ」"
セシリアの面影。
できれば、立派な勇者になったところをこの人に見て欲しかった。
笑顔で自分とソフィを撫でてくれたこの人に、二人揃ってお礼を言いたかった。
できれば、仲間たちとこの人の元を訪れたかった。
だが、それはなにひとつ叶えることができない。
アレンの瞳。
そこから溢れる、一筋の涙。
裏切り。虐殺。故郷の崩壊。
アレンの脳裏。
そこに浮かぶ、これまでの記憶の奔流。
「セシリア。さん」
「アレンくん。もう、いいよ。もう。全部、わかったから。色々、あったんだね。ごめんね。余計なこと、聞いちゃって」
言わずとも、セシリアにはわかる。
アレンの表情。そして仕草からとても辛いことがあったということを。
そして、セシリアはあの時のように微笑む。
アレンの姿。
それに自らもその瞳を潤ませ、アレンと同じように一筋の涙をこぼしたのであった。




