希望の加護
「アレン」
「はい」
「もう大丈夫なのか?」
クリスの問いかけ。
それに頷き、アレンは答えた。
「クリスさん」
「なんだ?」
「ありがとうございます。それに、フェアリーに魔物のみんなも」
自分とガレアの仲裁。
その為に命を賭し身を挺そうとした面々に対し、アレンは心の底からの礼を述べる。
それに、クリスは応えた。
静かに首を横に振りーー
「礼には及ばぬさ。俺の意思でやったことなのだからな。それに……仲間の喧嘩を収めるのは、同じ仲間として当然のこと」
微笑み、アレンの心に寄り添うクリス。
そしてそんな二人の間に割り込む、スライムと共に近づいてきたフェアリーの声。
「しかし、勇者様の力はすげぇなやっぱり。魔物が束になっても近づくことさえできなかった」
スライムの頭。
そこに胡座をかき、フェアリーはいつもの調子で声を響かせる。
そんなフェアリーに、他の魔物たちも続く。
「その力があれば、世界を治めることも容易い」
「いや。もう既に治めていると言っても過言ではない」
「勇者様。その力を誇りに思ってください。我らは皆、貴方様を信じていますので」
魔物たちの励まし声。
それに倣い、クリスは三度声を響かせようとした。
「ガレアは」
大丈夫か?
しかしそれを遮る、ヨミの声。
震え頭を抱え、蹲ったたままヨミは声を響かせる。
「ペルセフォネ。違う。わたしの名前は、ヨミ。冥府の闇。そ、それだけが私を救ってくれる」
"「私はペルセフォネ。冥府の女王」"
脳裏に刻まれたその言葉。
それは、冥府に支配されていた頃の記憶。
気づけば、あの闇の中に。
気づけば、あの殺風景な空間の玉座に。
私は座していた。
しかし、それも全て。
"「存在の加護」"
アレンの力により、存在していた。
恐る、恐る。
ヨミは、アレンを見つめる。
無機質な表情。なにかを秘めた光無き瞳。
そして、ヨミは感じる。
こちらを見つめ、交わった自分とアレンの視線。
そこに、感じた。
得体の知れぬ深淵の闇の蠢きの如き、力の胎動。
その得体の知れぬ存在の放つオーラを確かに感じた。
「……っ」
アレン。勇者。
いや、アレはーー。
そうやって震える、ヨミ。
その姿に気づき、フェアリーは再びヨミのほうへと近づいていく。
スライムと共に、
「さて、と。あいつの処遇はどうする?」
「きゅっ」
そんな空元気な雰囲気。
それを醸しながら。
その光景の中。
「アレ、ん」
か細い。アレンの名を呼ぶガレアの声が響く。
アレンに寄りかかったガレア。
その顔に生気はなく、あるのは衰弱した表情。
それは一度でも冥府に支配された者の精神的な磨耗を表していた。
弱々しく漏れる吐息。
滲む汗。
それは、明らかにガレアが普通の状態ではないことを意味している。
そんなガレアの肩。それをぎゅっと握りしめ、アレンは静かに言葉の続きを待つ。
そして、ガレアは囁く。
アレンの耳元。
そこに口を近づけーー
「我はお主を信じておる」
そう声を発し、弱りきった笑みを浮かべるガレア。
その表情。それに、クリスもまたアレンの肩に手を乗せ、声をかけた。
「俺もだ。アレンがそうして欲しくはないと思ったとしても、俺たちは最後まで勇者のことを信じる……そう決めたのだから」
笑う、クリス。
その二人の笑顔。
それを見つめ、アレンは笑顔ではなく引き締められた表情で応える。
そして、行使した。
「希望の加護」
希望の加護。
それをもって、付与する。
震え怯え続ける生き残った人々と弱りきった面々たちの心。
そこにーー
「この世界は勇者の加護に包まれている」
という言葉と共に希望を灯し、その瞳に再び光を灯したのであった。




