VS魔王③
存在の加護の解除。
それをもって、冥府という概念そのものの存在を無かったことにするアレン。
それが意味すること。
それは即ちーー
ガレアの心に巣くった冥府。
それが無かったことになり、ガレアの心が元に戻ったことを意味していた。
「アレ、ん」
瞳に光が戻り、眼前のアレンの名を呟くガレア。
「お主は何故。我は一体なにを」
「……」
ガレアの言葉。
それに、アレンは無言をもって応えちいさく頷いた。
そして一歩二歩三歩と後退し立ち止まり、首に刺さった剣を抜き身を起こしたヨミを仰ぎ見、声を響かせた。
「ペルセフォネ」
「だれ、ソレ? わたしは、ヨミ」
「冥府の女王」
「めいふのじょおう。なに、ソレ?」
その光景。
それに、周囲の者たちは声を轟かせる。
「てッ、てめぇ!! まだ生きてんのか!?」
「……っ」
「勇者様ッ、はやくその化け物にトドメを!!」
「トドメ? なに? ソレ?」
己の鮮血。
それの付着した聖剣を握り、小首を傾げるヨミ。
「わたしはヨミ」
「……っ」
響く、ヨミの言葉。
それにフェアリーは息を飲む。
しかし同時に怒りが込み上げてくる。
「おいッ、てめぇ!!」
「なに?」
「なにも覚えていないのか!?」
「覚えてない」
そうヨミが言い放った瞬間。
フェアリーは潰えた羽を振り絞り、ヨミの眼前へと飛来。
そして、その小さな拳を握りしめーー
涙を堪え、ヨミの頬へと力無く拳を叩き込む。
「ふざけんなッ、覚えてない……だと? 舐めてんのかッ、おまえ!?」
小さな拳。
それが二発、三発とヨミの頬へと叩き込まれていく。
拳は小さい。なので、痛みは感じない。
しかし、ヨミの瞳は紛れもなく潤んでいた。
「ヨミ。なにかした?」
ぽたぽたと流れる、幼いヨミの涙。
それにフェアリーの怒りは、次第に萎んでいく。
しかし、フェアリーは更に続けた。
「冥府に支配されていた。だから、なにも覚えていない。んな理由で、こいつのしでかしたこと全てが許されちまうのか?」
やり場のない怒り。
それを堪え、唇を噛み締めるフェアリー。
「ごめん。なさい」
フェアリーの言葉。
それに涙声を発し、ヨミは額を地に押し付ける。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ヨミ。また、いけないことをしました」
謝り慣れた、ヨミの姿。
「何回でも。ヨミに痛いことをしてください。悪いことをしたヨミは、痛いことをされる義務があります」
「……っ」
怒りと哀しみ。
それに心がぐちゃぐちゃになる、フェアリー。
そしてそれは、周囲の魔物たちも同じだった。
皆一様に目を潤ませ、その唇を噛み締めている。
その光景。
それに、ガレアはアレンへと問いかけた。
「アレン」
アレンの身。
そこに憔悴しきった表情で寄りかかりーー
「お主の加護。それをもって、なにをしたのだ?」
「存在の加護の解除」
「存在の加護。の解除?」
「魔王様の心に巣くった冥府。ソレにかかっていた存在という加護を解除しました」
一点にヨミを見据え、更に続けるアレン。
「冥府。それはもう存在しない」
「であるのなら。何故、あのモノは生きておる。何故、傷が癒えておる。冥府に支配されておったのならーー」
「不死身の加護」
アレンの口。
そこから漏れる、言葉。
「誰があの少女に加護を与えたのか、俺にはわかりません。ただ確かに、あの少女には加護がかかっていました」
「……」
押し黙る、ガレア。
ヨミを支配していたのはどちらか。
冥府か、それともアレンなのか。
"「返してもらうぞ」"
先刻、響いたその言葉。
それを思い返し、ガレアは静かに無機質なアレンの顔を見つめる。
物憂げな光。それをその瞳に宿しながら。




