VS魔王②
「く……っ」
ガレアの手により瀕死になったフェアリー。
しかし、その命はまだ潰えてはいなかった。
小さな羽。
それは既に使い物にならない。
しかし、その瞳の光は未だ消えてはいない。
地に堕ち、フェアリーは相対するガレアとアレンを見据える。
そんなフェアリーの元。
そこに集まる、魔物たち。そして、クリス。
「きゅっ」
「フェアリーッ、大丈夫か!?」
「くそっ。冥府め……我らのガレア様をあんな風にしやがって」
「許すまじッ、それにアレン様の様子がおかしいのも冥府の仕業だろ!!」
口々に声をあげ、様子の変わったガレアとアレンに悔しさを露わにする面々。
その反響する声。
それに、クリスもまた応えた。
「この状況。それは、冥府がもっとも望んだカタチ。魔王と勇者。その二人の心に巣くい殺し合いをさせる。ペルセフォネ。あの少女の心に闇を満たし、利用したように」
鋭き眼光。
それをもって更に続ける、クリス。
「冥府という世界等、端から存在などしていない。アレは概念そのもの。あの少女の言葉。それを言葉通りに信じるのなら、な」
「よくわからねぇ」
「きゅっ」
「簡単に言えば、冥府は物質的なモノじゃないってことか?
「うーむ……難解ですな」
「しかし、わかっていることはただひとつ」
「うむ」
魔物たちは顔を見合わせ、フェアリーはそれを纏め声を響かせた。
「よくわからねぇがッ、冥府は鬱陶しい存在だってことだ!!」
フェアリーの心の底からの叫び。
それに呼応し、クリスはその瞳に白銀の光を宿す。
静かに、一言も言葉を発することなく。
そのクリスの姿。
それに、フェアリーは悟る。
「クリス。いや、剣聖。まさか」
「……」
フェアリーの声。
それに応えず、クリスはその身から自身の加護をたぎらせる。
その色は白銀。それは紛れもなく、剣聖の加護そのもの。
"「勇者。俺は共には行けない。だが、君のその瞳。その覚悟は嫌いではない」"
アレンに初めて会った時に発した己の言葉。
それを噛み締め、クリスは覚悟を決めた。
「二人は俺が止める」
「言うと思ったぜ。だが、クリスさん。あんた一人にッ、その責は負わせない!!」
クリスの言葉。
それに、フェアリーを中心にした魔物たちは雄叫びをあげる。
「俺たちもやる!!」
「そうだッ、そうだ!!」
「ガレア様にッ、アレン様!! その二人に世界を治めてもらうのだからな!!」
「きゅっ!!」
クリスを中心に、徒党を組む魔物たち。
その光景。
それに、アレンはしかし動じない。
「来い。アレン、あれん」
「……」
ガレアの掠れきった声。
それに応え、アレンはガレアに向け駆け出す。
「速さの加護」そう、呟いて。
だが、そこにクリスの身が割り込む。
クリスの剣。アレンの魔王殺しの剣。
その二つがぶつかり火花が散りーー
「アレン!!」
轟く、クリスの声。
だが、アレンは引かない。
「退け、クリス」
呟き、「筋力の加護」そう自身に加護を付与し、クリスの剣を弾くアレン。
そしてその脇をすり抜け、アレンはガレアとの距離を詰めていく。
「面白い。オモしろいぞ、アレん」
ガレアもまた嗤い、自身もまたアレンを迎え撃たんとその足を一歩前に踏み出す。
そのアレンとガレアの間。
そこに魔物たちは決死の覚悟で突入していく。
「死んでも止めるのだ!!」
「きゅっ!!」
「うぉおおお!!」
それを、アレンは蹴散らす。
「風の加護」
そう呟き、突風をもって魔物たちを後退させて。
魔物たちは前に進めず、焦燥にかられる。
そして。
アレンの身。
それがガレアの眼前にまで及び、クリスとフェアリーそして魔物たちは息を飲む。
だが、そこに響いたのはアレンの声。
「存在の加護を解除」
「冥府という概念。魔王の心に蝕む、その存在を解除する」
ガレアの胸。
そこに空いた手を押しつけーー
存在の加護の解除。
それを行使した、アレンの決意のこもった声だった。
同時に、死したはずのヨミの身体。
それが僅かに動く。まるで、糸が切れた人形に再び糸が繋がれたかのように。




