存在の加護②
剣を振り上げ、淡々とそれをペルセフォネへと振り下ろさんとするアレン。
「殺せ」
「そいつを殺せ、アレン」
「復讐の為に、容赦なく」
「言われなくてもやってやる」
内から響く、己の声。
それに内心で応え、アレンはペルセフォネを見据える。
その光景。
それをガレアは目を逸らすことなく見つめ、静かに声を響かせた。
「アレン」
「はい」
「その者の死。それをもって、お主の心は満たされるのか? 命を奪わぬとも……こちら側に引き込めば」
淡々と響くガレアの問い。
それに、アレンは無機質な表情をもって応えた。
己の瞳を闇に一色にし、淡々と。
「ペルセフォネ」
「我は、ガレアだ。何を言っておる」
「魔王をどこにやった?」
「魔王? 魔王はここにおるではないか」
場にそぐわぬ、笑み。
それをたたえ、アレンを見据えるガレア。
しかし、アレンの表情は変わらない。
「この少女は抜け殻か」
「アレン。なにをイっておる。我は、魔王。ペルセフォネは、ソコにおるではないか。お主に加護を取り上げられ……矮小なニンゲンに成り果てたペルセフォネが、ソコに居るではナイか」
ペルセフォネへと向けていた剣。
それをガレアへと向け、「返せ」そう声を響かせアレンは力を行使しようとした。
だが、しかし。
「ふ、ふふふふ。アレン。アレン。あれん」
掠れ、どこか不気味さが漂う声。
それが響き、アレンは見た。
仮面のような笑み。
それをたたえーー
「我は魔王。まおう。マオウ。お主ヲ、殺すモノ」
アレンへと敵意を向ける、ガレア。
しかし、その両目。
そこからは、ペルセフォネの抗えぬ支配に対する涙が滴っていた。
そんなガレアの姿。
それに、魔物たちは駆け寄ろうとした。
「がッ、ガレア様!!」
誰よりもはやく。
ガレアの元に近づいた、フェアリー。
だが、ソレを。
「羽虫」
と、ガレアは忌々しく吐き捨て、虫を掴むかのように握りしめる。
ゴキっ
「が、ガレアさま。ガレアさま」
「は、ははは。わ、我は。我は。全てを壊すモノ」
"「ガレア様。わたしは、ずっと貴女様のお側に」"
ガレアの脳内。
そこに浮かぶ、フェアリーの人懐っこい笑顔。
しかしソレも、闇に塗り潰されていく。
まるで月に雲がかかるように。じわり。じわりと。
滴る涙。
壊れゆく自身を認識し、長きに渡り側に仕えた臣下の命を狩ろうとする己の所業。
アレンはそれを見据え、創造の加護をもってその手に聖剣を握った。
ガレアを支配した概念。
それを、殺す為に。
だが、そのアレンの背に少女の声がかかる。
「わたしは冥府という名の概念そのもの。いくら貴方が加護を取り上げたところで、ワタシは消えない。概念だもの。貴方の加護をもってこの世界を消したとしても、ワタシは消えない」
ふらり。
と立ち上がり、抜け殻と化した少女は淡々と声を響かせた。
「概念だもの。だから、この場で最良の選択肢をワタシはトル。最良の選択肢。ソレは、魔王を支配し貴方を殺させること。貴方に魔王を殺せはしない。そんなの……貴方にできるはずもないのだから」
目から色を無くし、アレンを嘲笑う少女。
その声に、アレンは応える。
「魔王を殺す」
「それが俺にできないと思っているのか?」




