存在の加護①
「ち、違う。貴方は人間じゃない」
アレンの言葉。
それをペルセフォネは必死に否定しようとする。
「ちがう。ちがう。わたしの知ってる人間は、わたしの知ってるこれまでの勇者は。そんな」
理解が追いつかない、ペルセフォネ。
そして同時に口元をおさえ、ペルセフォネは途方もない吐き気を催す。
「な、なにこれ。気分が悪い」
理解が追いつかない。頭が回らない。
そんな感覚を抱くことなど、これまでのペルセフォネにはなかった。
冥府の女王。
その存在である時は、己の限界などなにひとつ感じることなどなかった。
しかし、今のペルセフォネは冥府の女王などではなくただの人間。
己の容量。それを超えそうな事象を目の当たりにしては防御本能が働くのは当然のこと。
そして、それはこれまでペルセフォネが積み重ねきた死の瞬間にも耐えられないことを意味していた。
涙目。
それを晒し--
「いたいっ、いたい!! くるしいっ、たすけて!! あづい!! 命だけはッ、あが!!」
込み上げる、己のうちに積み重なった何百何千年もの死の瞬間の声。
それに震え、涙と共に叫びながら、血反吐を吐き、その場で己を抱きしめのたうち回る、ペルセフォネ。
その光景。
それを魔物たちは固唾を飲んで見守る。
今、ペルセフォネへと攻撃を加えればその命を奪うことはできる。
だが、魔物たちはアレンの身から漂う異様なオーラに身をすくませていた。
冷たくなったリリス。
その側に寄り添い、フェアリーもまたその身を震えながらアレンを見つめる。
今まで見たことのない、アレンの姿。
それに、言いようのない畏れを抱きながら。
「あ、あれ勇者様……なのか?」
「な、なんだか雰囲気が違う」
「俺たちの知ってる勇者様じゃない」
「そそそ。そうだな」
響く、魔物たちの怯え声。
そんな魔物たちの声。
アレンはそれらに反応を示さない。
ただ淡々と。
「創造の加護」
そう呟き、その手にペルセフォネを屠る為の剣を創り握るアレン。
創造されしは、冥府殺しが付与された剣ではなくただの鉄の剣。
普通の人間の命。
それを奪うにはこれで充分だと言わんばかりに。
そして、アレンはペルセフォネを見下ろす。
静かに。無機質に。
「アレン」
アレンの名。
それを響かせる、ガレア。
「はい」
ガレアの声。
アレンはそれに表情を一切変えることなく応え、声の響いたほうへと意識を向ける。
自らの赤髪。
それを揺らし、ガレアは問いかけた。
足を止めたアレンへと--
「その者を殺すのか?」
ガレアの問い。
それに頷き、足下のペルセフォネへと刃先を固定するアレン。
到底人の身には耐えられぬ死の瞬間。
それに痙攣を繰り返し、虚な眼差しで天を見つめる少女。
アレンに芽生えたその少女への殺意。
それは決して揺らがない。




