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ペルセフォネ④

様子の変わった、ペルセフォネ。

その冥府の女王に、アレンは近づいていく。

一歩。一歩。

その瞳に、闇をたぎらせながら。


それにしかし、ペルセフォネは動かない。

いや、動けないといったほうが正しい。


突きつけられた、現実。


「そ、存在の加護。ゆ、勇者の力でこの世界は存在している。そ、そんなこと信じたくない。信じたくない」


呟き、ペルセフォネはその場にうずくまる。


そのペルセフォネの姿。

冥府の加護を失い、非力な少女となったペルセフォネ。


それを、魔物たちは取り囲まんとした。


「ただの人間に容赦はしない!!」


「今までの偉そうな態度ッ、死をもって償ってもらおうか!!」


「がるるるッ」


しかし、ペルセフォネは魔物たちの威勢に気づかず終わらぬ自問自答を繰り返すのみ。


存在の加護。

だ、だとすればアレンがこの世界を?

う、ううん。違う。勇者という存在は、アレン以外にもたくさん居た。


あらゆる死の瞬間。

それを見てきた、ペルセフォネ。

その中には数多の勇者の死の瞬間もまたあった。


その勇者たちの死。

加護とは違う、様々な力を持っていた勇者たち。

ある者は、使命を果たし円満な死を。

そしてある者は、闇に敗れ悲運な死を。

そしてまたある者は、己が魔王だと自称し魔王に代わって世界を闇に包み--


「く、繰り返された闇と勇者の歴史。そ、それも全て。アレンの加護によってつくられていたって言うの? こここ。この世界が、存在の加護によって存在しているのだとしたら……現在。過去。未来。その全ての世界を」


「……」


独り呟き、周囲を顧みないペルセフォネ。

その側に佇み、アレンはトドメをささんと手のひらをかざす。


感じる、気配。

ペルセフォネはソレに顔をあげ、叫ぶ。


「嘘。嘘。うそッ、嘘をついてわたしを怯えさせようとたってそうはいかないわ!!」


自らを鼓舞し、必死に自分を繕うペルセフォネ。


立ち上がり。

そして、周囲を見渡し--


「わたしは冥府の女王ペルセフォネッ、全ての死を超越し冥府を統べる者なの!!」


引き攣った笑み。

それを浮かべ、三度、ペルセフォネは加護を行使しようとした。


血気盛んな魔物たち。

ガレア。そして、クリスに向けて。


「め、冥府の加護がひとつ」


すっと息を吸い込み、僅かにその唇を震わせペルセフォネは言葉を紡いだ。


「死の加護」


その言葉。

それが響き、ペルセフォネは期待する。

皆、なすすべもなく倒れ伏せる結果。

それを期待した。

だが、現実はペルセフォネの思ったようにはならなかった。


誰一人として、その場に倒れない

それどころか、皆、ペルセフォネへと殺気を向けじりじりと距離を詰めてくる有様。


汗を垂らし、「し、死の加護!! しょ、消滅の加護!!」そう叫び続けるペルセフォネ。


だが、何度も繰り返しても結果は変わらない。


そして、そのペルセフォネの足掻きに終止符を打ったのはアレンの声。


「終わりだ」


「……っ」


響いた声。

それにペルセフォネは力無く、アレンを仰ぎ見た。

そして、今まであげたことのない人の少女としての悲鳴をあげる。


「ひ、ひぃ」


後退り。

アレンから離れようとする、ペルセフォネ。


「あ、貴方はナニ? なんなの? 神? う、ううん。そんな生優しいモノじゃない。貴方は一体」


「俺は人間だ」


「そ、そんなの信じない。ただの人間の範疇。それを貴方はとっくに超えている。返してもらう。そ、その言葉だって……ま、まるで。冥府の加護が元は自分のモノだったみたいな言い方じゃない」


ペルセフォネの問い。

それにアレンは応えた。


ただ静かに、「俺は人間だ。勇者アレンという名の人間だ」と声を発し、己の背に名状しがたき加護のオーラを揺らし、その顔に無機質な表情をたたえながら。


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