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ペルセフォネ②

「アレン」


「あ、勇者アレン様」


「……」


姿を現した、アレンの姿。

それに、ガレアとフェアリー。そしてクリスはそれぞれの感情をもって見つめる。


その三人の視線。

それを受け、アレンは応えた。

言葉を発することなく。

ただ静かに、周囲の状況を悟り頷いて。


降り注ぐ矢の雨。

それは、アレンにより待機を命じられていた彼方の要塞の弓兵たちによる総攻撃。

その矢に対し、アレンは更なる加護を付与した。


「巨大化の加護」


アレンの言葉。

それに呼応し、一本一本の矢がそれぞれその大きさを増す。

その大きさ。

それは丁度、人一人分の大きさだった。


そして、更に。


「解除の加護」


その歩みを進めながら、アレンは呟く。

己の闇。

それを引き連れ、死の加護のかかった魔物たちを解除の加護をもって元の状態に戻すアレン。


「ん? あ、あれ?」


「一体俺たちはなにをしてたんだ?」


「記憶がないぞ」


立ち上がり、自分たちの置かれた状況を把握しようとする魔物たち。

その魔物たちの姿。

それを見渡し、ペルセフォネはしかし動じない。


「あの玩具フィン。全然、役に立たない」


そう吐き捨てる、ペルセフォネ。

顔は笑ってはいる。

しかしどこか不満げな表情がそこにはあった。


「玩具」


響いたペルセフォネの言葉。

それを反芻し、足を止めるアレン。

それと呼応し、巨大化の加護が付与された矢が冥府のモノたちへと降り注ぐ。


瞬間。

矢に穿たれ、その場に崩れ落ちていく冥府のモノたち。


そして更に。


「ペルセフォネ」


冥府の女王。

その名を呟き、アレンは手のひらをかざす。


「ここでお前を終わりにする」


響いたアレンの声。

それをペルセフォネは嗤う。


「終わりにする? ナニを?」


「お前をだ」


アレンの意思のこもった声。

それに呼応し、アレンの周囲に展開されるは星の数程ある冥府殺しの剣。


「わぁ、すごい」


自らを殺す剣。

その無限を思わせる剣を見つめ、ペルセフォネは己の死を連想し感嘆する。


そして。


「ねぇ、リリス。あの勇者様、すごいと思わない? だって、わたしを本気で殺そうとしてるんだもの」


自らの腕の中。

そこでぐったりとするリリスへと語りかけ、その瞳に影を落とすペルセフォネ。


「でも。うん、うん。やっぱり、まだ人の心はもってるみたいね。貴女を離せって。そんなことを言うなんて……思ってもみなかった」


"「リリスを離せ」"


響いた、アレンの言葉。

それを己の頭の中で反芻し、ペルセフォネは嗜虐に満ちた笑みを浮かべた。

その笑み。

それに、アレンは妙な予感を覚える。


果たして、その妙な予感。

それは、的中する。


「お望み通り離してあげる。でも」


笑みを無くし、ペルセフォネは続けた。


「わたしの玩具にならないモノなんて。いらない」


呟き。

抵抗を無くしたリリスの身。

その身に、ペルセフォネは無機質に腕を突き刺す。


ぐちゃっ


という音。

それと共に、リリスの瞳から生気が消える。

口元。

そこから血を滴らせ、虚な瞳でアレンを見つめたリリス。


刹那。


ペルセフォネの背。

そこに穿たれる、冥府殺しの剣。

しかし、笑い声は止まらない。


「ははは。はははッ、ははは!!」


リリスから離れ。

その手にちいさな心臓を握り、狂笑をあげるペルセフォネ。

その頬を鮮血に濡らし--


「死んだ。死んだ。はははッ、死んじゃった!!」


己の眼前に現れた死の瞬間。

それを噛み締め、ペルセフォネはふらふらと楽しそうに後退る。


目を見開く、ガレアとクリス。

そしてフェアリーもまた、力無く石畳へと墜落し血溜まりに崩れたリリスを見つめた。


その顔。

死の瞬間を直視した、者たちの表情。

それは、ペルセフォネが最も望む絶望のカタチ。


「もっと見せて。もっと、もっと。その表情カオをわたしに」


見せてよ。


「死ね」


ペルセフォネの声。

それを遮る、アレンの声。

ペルセフォネの首。

そこに穿たれる、冥府殺しの剣。


闇へと代わり溜まりとなる、ペルセフォネ。

しかし、ペルセフォネの余裕は崩れない。


「何度やっても同じ」


声を響かせ、その闇の中からペルセフォネは元の姿を現す。


「わたしは死なない」


アレンの姿。

その闇を纏う障害。

それを見据え、微笑むペルセフォネ。


「いくらやっても同じ。何度やっても、結果は変わらない。ふふふ。だったら、ね? 諦めて。絶望して。わたしに。冥府の闇に全てを委ねればいいの。そうすれば、なにも恐れることなんてないんだから」


ペルセフォネの嘲り。

それにしかし、アレンは反応を示さない。

ただ静かに。ただ、淡々と。


冥府殺しの剣。

それをもって、ペルセフォネを撃ち抜いていく。


ぐちゃっ

めきっ


「〜〜♪」


響く、ペルセフォネの鼻歌。


死しては蘇り、蘇っては死に。

ペルセフォネは何度も何度も、アレンにより死を与えられる。


その光景。

それをガレアは剣を収め、見つめる。

自らの瞳。そこに、諦観を滲ませながら。

フェアリーはリリスの側に寄り添い、ぽろぽろと涙をこぼすのみ。


だが、アレンは止まらない。

ペルセフォネに対する、殺意。

それをたぎらせ、まるで意思を無くした人形のように死を与えていく。


「アレン」


クリスは、アレンの名を呼ぶ。

しかし、アレンは反応さえ示さない。

光無き双眸。

それをもって、ペルセフォネの死だけを望むのみ。


嗤う、ペルセフォネ。

ある瞬間は、目を抉られ。

またある瞬間は、首を飛ばされ。

そしてまたある瞬間は、腹を串刺しにされて。


それでも、ペルセフォネは嗤い続けた。


「はははッ、ははは!!」


ぐちゃっ


「死。それを、わたしは畏れない」


ごきっ


「だから。あなたがいくらわたしを攻撃したところで意味なんてない」


めきっ


だが、次第に。

ペルセフォネの表情。

そこから、笑顔が消えていく。


「どうして」


ぶちっ


首が千切れ飛び。


「どうして。どうして」


ぐちゃっ


身体が遮断され。


「どうして。どうして。どうして」


べちゃっ


顔を抉られ。


「オマエは絶望しない?」


結果の変わらぬ行為。

それを表情ひとつ変えず、繰り返し行うアレン。

その姿。

それにペルセフォネの心は微かに揺れ動く。


「……」


ペルセフォネの問い。

アレンはそれに応えない。

ただ、有無を言わせずペルセフォネへと冥府殺しの剣を穿ち続けるのみ。


「畏れろ」


「わたしを畏れろ」


「死を超越した、ワタシを畏れろ」


アレンを見つめ、ペルセフォネは呟く。

忌々しく。己の内心で。


しかし、アレンは変わらない。


更に、多く。更に、無慈悲に。

更に、その表情を暗くし。


「創造の加護」


冥府殺しの剣のみならず--


冥府殺しの槍。矢。斧。短剣。指輪……


あらゆる武器。あらゆる道具。

それを創造し、アレンは複製していく。


自分に対し、その全ての矛先を向ける冥府殺し。


「こ、こんなモノ」


さしものペルセフォネも、アレンの勢いに飲まれてしまう。

いくら死なないとはいえ、ここまで自分に対し結果の変わらぬ死を与え続ける存在。

それは、アレンがはじめてだった。


「俺はオマエを殺す」


響く、アレンの感情なき声。

それにペルセフォネは、生まれてはじめて畏れを抱く。


これまでの余裕。

それを無くし、叫ぶペルセフォネ。


「わたしは死なないッ、死なない!! いくら、オマエがわたしを--ッ」


「殺す」


アレンの呟き。

それに倣い。

ペルセフォネの周囲。

そこに一切の死角なく展開される、冥府殺し。


それにペルセフォネは、自分の死を感じる。

これまで感じてきた死の感触。

それとは違う、ホンモノの死の気配。


それをペルセフォネは、


「……っ」


鮮明にその身に感じたのであった。

いつも読んでくれてありがとうございます。

がんばって更新してきますので、今後ともよろしくお願いします。

ここから先、書き直しです。

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