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ペルセフォネ①

 〜〜〜


 勢いを増す、冥府のモノたち。

 その存在たちを相手に、奮闘する面々。

 その姿。

 それをペルセフォネは、佇み見据える。


 まるで喜劇を楽しむ観客のような面持ち。

 それをその顔に浮かべ、「玩具同士の争い。見世物としては、上出来ね」と呟きながら。


 しかし、そこに。


 ちくり。

 ペルセフォネの背。

 そこに走る、微かな痛み。


 それに、ペルセフォネはゆっくりと王城を仰ぎ見る。


 フィンの死。

 その感触をその身に感じた、ペルセフォネ。

 そして、その顔。

 そこに浮かぶのは、お気に入り玩具。それがひとつ壊れた幼子の表情そのもの。


「また壊れちゃった。また壊れちゃった。これで何個目--」


 かな?


 そうやって響かんとした、ペルセフォネの声。

 だがそれを遮るは、リリスの自信に満ちた声だった。


 一人、ペルセフォネのすぐ側に転移し。


「聞けッ、わたしはいずれ賢者に至る者!! 冥府? とかいうわけのわからないモノに遅れをとるわたしではないのだ!!」


 同時に舞い上がる、リリスの黒のローブ。

 赤色の魔力。

 それが風に舞う火の粉のようにリリスを包み、かざされた手のひらの前に煌々と輝く火球を形づくっていく。


 曰くそれは。


火球ファイヤーボール!!」


 高らかに叫ばれる、魔法の名。


 とんがり帽子。

 それを手で抑え、リリスはペルセフォネに向け火球を撃ち放たんとした。


 しかし。


冥府わたしの加護。消滅。対象は貴女の魔法」


 こちらに向き直り、微笑んだペルセフォネ。

 そしてその口から発せられた言葉と共に--


 ぽんっ


 という音と共に、火球は消滅。

 そして残るは、霧散した赤の魔力の中で、「い、一時撤退ぃ」弱気な声をこぼすリリスのみ。


「おいッ、リリス!!」


「ふぇぇ」


 悲鳴をあげ、その場に蹲り戦意を喪失するリリス。

 そんなリリスにかかる、フェアリーの鼓舞。


「ビビるなッ、賢さ0なんだろ!? ならッ、なにも考えず魔法を撃ち続けてくれ!!」


「ほッ、本能には逆らえない!! 怖いものは怖い!!」


「そう。人間は本能には逆らえない」


 リリスの言葉。

 それに無機質に応える、ペルセフォネ。


 そして、自らの眼前。

 そこに瞬きの間に迫り、剣を払わんとするガレアを見据え三度呟く。


「貴女も消える?」


「消えるのはお前だ」


 吐き捨て。

 ペルセフォネのか細い首。

 そこに剣を突き立て、抉り、横に払うガレア。


 びちゃっ


 飛ばされる、ペルセフォネの首。

 あたりに闇が散り、ペルセフォネはその幼い顔に虚な瞳を晒す。

 そしてその口元。

 そこに歪な笑みを浮かべ、ソレは二度三度と跳ねながら石畳の上を転がっていく。


 そしてそれに呼応するは、クリスの剣戟。


「剣術の加護」


 残ったペルセフォネの身体。

 ふらつき、今にも崩れそうな操り人形のような肢体。

 ソレを、クリスの剣が真っ二つに遮断した。


「わぁッ、すごい!!」


 ガレアとクリス。

 その二人の、息吐かぬ攻撃。

 それを見届け、咄嗟に勢いを取り戻し、リリスは立ち上がる。


 そして。


「トドメ!!」


 と叫び、再び魔法を発動するリリス。

 赤色の魔力。それが再びリリスを包み、かざされた手のひらの前に火球をカタチづくっていく。


 だが、そこに。


「リリス」


 名を呼ぶ声。


「貴女。恥ずかしくないの?」


 リリスの脳内。

 そこに響く、ペルセフォネの冷たい声。

 こちらを見据える、首だけになった虚なペルセフォネの眼差し。その視線にまとまわりつくかのような、ペルセフォネの冷たく無機質な言葉。


「貴女。よくのうのうと、恥ずかしげもなく。そっち側に立っているわね。自分がなにをしたか。貴女が勇者アレンになにをしたのか。覚えていないの?」


 弱まっていく、リリスの赤の魔力。

 同時に潤む、リリスの視界。

 賢さ0。

 そのアレンの加護の影響。

 それを一切受けない、ペルセフォネの力。


「かわいそうな、勇者様。哀れな勇者様。今までずっと、貴女を信じていたのに。勇者様をあんな風に変えてしまったのは、貴女でしょ? リリス。リリス。あぁ、なんて。いけない子なのかしら」


 鼻歌を囀るように。

 リリスの心を弄ぶように。

 ペルセフォネの楽しそうな声が、リリスの記憶を抉る。


「貴女のこと。勇者様が本当に許したと思っているの? ううん。許されたと思っているの?」


「わ、わたしは」


「そうよね? 今までたくさん助けられて。迷惑をかけて。それでも、勇者様は笑って貴女を許してくれたのに。それを貴女は--」


「やめ、やめて」


 壊れた蛇口。

 それを思わせる、涙の滴り。


「やめて? ふふふ。わたしはただ、ほんとのことを言っているだけなのに」


 ふわり。


 リリスの背。

 そこにかかる、氷のような冷たさ。

 そして、リリスの腹に絡みつくはペルセフォネの真っ白な一切の生気を感じさせない手だった。


 その光景。

 首を飛ばし、その身を分断したにも関わらず--


「ど、どうして生きてんだよ?」


 元のカタチ。

 それを晒し、何事も無かったかのようにリリスを後ろから抱きしめるペルセフォネの姿。

 そんな有り得てはならない非現実的な光景。


「ペルセフォネ」


 剣についた闇。

 それを払い、ガレアはペルセフォネを見据える。

 冥府の女王。

 死を超越し、己の死を拒否する冥府を支配せし者。


「まッ、魔王様!! あいつをッ、リリスを助けてください!!」


 叫び。

 フェアリー自らもリリスの元へと近づこうとする。

 しかしそれを遮るは、無限を思わせる冥府のモノたちの出現たちだった。

 リリスと、ガレアたちの間。

 そこに現れ、ペルセフォネの意を汲む存在たち。


 それに倣い。


 リリスの幼い身体。

 それに後ろから更に強く抱きついた、ペルセフォネ。


「ねぇ、リリス」


「……っ」


 リリスの耳元。

 そこでペルセフォネは、囁く。


「こちら側に来たら。全てを無かったことにできる。と言ったら、どうする?」


「無かったことに。り、リリスのしたことが。なかったことに」


「うん、そう。わたしの消滅の加護。ソレを使えば、全て元通り」


「元通り。もと。とおり」


 涙が止まり。

 感情無き言葉を漏らす、リリス。


「わたしの。わ、わたしのしたことがぜんぶ。全部。無かったことに」


「だからね、リリス。私に心を開いて。みんな、みんな。あの聖騎士だって、そうやって。わたしに心を開いてくれたんだ。ふふふ。だから、ね?」


「り、リリスは。リリスは」


「可哀想なリリス。貴女が全て抱え込むことなんてないの。冥府の闇に。わたしに。全てを委ねて。委ねて。ゆだねて。委ねるノ」


 だらんと垂れ下がる、リリスの全身。

 そしてその瞳を侵食する、冥府の闇。


 リリスの心。

 ソレが黒く冷たく--


 だが、そこに。


「りッ、リリス!! お前はお前だッ、意思をしっかり持て!! そんな奴の言葉にッ、耳を貸すんじゃねぇ!!」


「かぁッ」


 無数の漆黒の鴉。

 その敵意から逃れつつも、リリスへと声を投げかけるフェアリー。

 そしてガレアもまた、甲冑姿の漆黒を切り捨て声を張り上げた。


「リリスよッ、我は知っておる!! お主があの時ッ、アレンに対し叫んだ贖罪をな!! そしてそれはきっとッ、アレンの心にも届いておる!!」


 "「ごめんなさいっ、も、もうあんなことはしません!! アレンもッ、ごめんなさい!! 勇者様の気持ちッ、それを考えずにあんなことをしたわたしを許してください!!」"


 幼い涙。

 それを散らし、アレンに叫んだあの言葉。


「強くもてッ、お主の心は弱くはない!!」


 フェアリーとガレアの言葉。

 それを聞き、クリスもまたリリスを信じる。

 言葉は発さない。

 しかしその眼差しには、確かにリリスを信じる光が宿っていた。


 しかし、冥府の闇はリリスを侵食していく。


 ごめんなさい、勇者様。

 リリスは、もう。

 もう、あの頃のリリスには戻れません。


 アレンへの贖罪。


 "「おっす、勇者アレン様。わたし、リリス。この村で一番の魔法使いなのだ」"


 優しい笑顔で自分を迎えてくれた、アレンの面影。

 そんな勇者を裏切った自分にできること。

 それは、全てを無かったことにして己の身さえも無かったことにして、己の罪を償うことしかできない。


「ふふふ。ふふふ」


 強く、強く。

 リリスを抱きしめ笑う、ペルセフォネ。

 その、冥府の誘い。

 抗いようのない、ペルセフォネの闇への手招き。


 しかし。

 その、冥府の思惑。

 それを、意思のこもった言葉が砕く。


「リリスを離せ」


 響く、声。


 刹那。


 雨を思わせる無数の矢。

 その必中が付与された矢の雨。

 それが、冥府のモノたちへと降り注ぐ。

 そして同時に、ペルセフォネは感じた。

 あの気配。あの、眼差しを。


障害アレン


 呟かれた、ペルセフォネの声。


 視線の先。

 黒く染まった王城。

 そこから、こちらに向け迷いや躊躇いなく歩み寄ってくる一人の存在の姿。


 その姿。


 それはまさしく--


 倒すべき敵を見定めた勇者アレン


 そのものだった。


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