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復讐②

 飛び散る鮮血。

 響く、絶叫。

 王はアレンの剣に捉えられ、泣き喚く。


「ききき。貴様ァ!! 我にッ、おおお。王である我にッ、我に我にィ!!」


 左腕に突き刺さった剣。

 その両腕を失った王を見下す、アレンの眼差し。

 そこに光は無く在るのは深遠の闇のみ。


 そして、空いた逆手。

 そこに三度、アレンは魔剣を握る。

 己の創造の加護。

 それをもって、淡々と。


「あッ、アレン!! 何度言ったらわかるのだ!! 我を殺したところでなにも変わらぬ!!」


 王としての威厳。

 それを捨て、仰向けで喚き続ける王。


「くッ、くそ!! 一体どこからだ!? 一体どこから漏れたというのだ!? アレンの故郷を滅ぼしッ、勇者を自害させるという計画!! 一体どこから--ッ」


 しかし、それを遮る。


「……」


 こちらを見下ろす、アレンの顔。

 その返り血を浴び、しかし無機質なアレンの表情。

 それに短く「ひぃっ」と悲鳴をあげ、王は声を詰まらせた。


 そして。


「め、冥府の者。わわわッ、我を助けよ!!」


 藁にも縋る思い。

 それを滲ませ、声を張り上げた王。


「契約を果たすのだッ、我の命を守り勇者を滅するという契約!! それを忘れたとは言わせぬぞ!! なんの為にッ、なんの為に!! 我の血筋を持つ者の命ッ、それを全て貴様らに捧げたと思っておるのだ!?」


 その言葉。

 それにアレンの目が見開かれる。


 化け物。

 この人間ゴミの心は、ほんとに化け物だ。


 心眼の加護。

 それをもって、アレンは王の心を見た。


 〜〜〜


 "「ぱッ、パパ!! ど、どうして、お母さんを。ねぇッ、どうして!? どうしてなの!?」"


 "「必要な犠牲だった。お主もまた、我の為に」"


 "「ひぐぅ」"


 我が子の小さな首。

 それを両手で締め上げ、王は笑っていた。


 "「ぱ、ぱぱ。いっ、いたい。いた……よ」"


 "「死ね。我の為に。愛しい我が子よ」"


 "「ぱ、ぱぱ」"


 ごきっ


 縋る我が子の手のひら。

 それを省みず、王は子を殺した。


 そして王は叫んだ。

 自らの背後に佇む存在に、「これで良いのであろう!? はッ、ははは!!」と。


 〜〜〜


 アレンの意思。

 それに倣い、王の言葉を踏み躙るように意思もつ闇が全てを飲み込む。

 ローブの姿の男。

 更に、未だ残った冥府の者たちを飲み込むようにして。


 そして、その光景に応えるようにして響く王の声。


「ふッ、ふん!! あのようなゴミ共の命等ッ、我の命と比べたら微塵の価値もない!! 我にはこの国を世界一の国家とするという目的があるのだからな!! はッ、ははは!! あはははは!!」


 狂笑。それに彩られた声。

 およそ人の所業と思えぬ行為。

 それを告白し、笑い続ける王。


 アレンはそれを聞き、有無を言わせず王の胸へと剣を振り下ろす。


 潰れた悲鳴。

 それが響き、王はその命を散らさんとした。

 だが、その顔に宿るは笑い。

 それは、己の犯した所業。

 それが最後の最後まで誤って等いなかったと言わんばかりの、歪みきった感情の発露だった。


「こ、この命をくれてやる」


 最後の力。

 それをふり絞り、つぶやかれた王の声。


 そして、その瞬間。


「果たす」


 今まで静かに。

 いや、一度、アレンの闇によりその身を食われた男の声。

 それが淡々と。まるで事の成り行きを見守っていたかのように響く。


 刹那。

 王の身が闇へと包まれる。


 それに呼応し、アレンの闇に飲まれ消滅した存在たちが三度、その姿を現す。

 その数は先程より多く、玉座の間をそれこそ埋め尽くさんばかり。


 しかし、アレンの表情は変わらない。


 自らの闇の加護。

 その加護をその身に纏い、冥府のモノたちと相対する。


 歪んだ人間。

 その本質により、立ち塞がった存在たち。

 それを見据えアレンは声を発した。


「来い。一匹残らず、殲滅してやる」


 圧倒的高見。

 そこから見下ろす強者のオーラ。

 それをその身に纏わせ、無機質に淡々と。


 〜〜〜


「おッ、おい!! なんだアレ!?」


 王都を包む、闇。

 それを見つめ、フェアリーは声をあげる。

 そのフェアリーの声。

 それに、ガレアは応えた。


「冥府の闇」


 王城。

 そこを中心に広がる異質な闇。

 どこか冷たく、世界を嘲笑うかのような漆黒。


「よもやこの目で。見ることになるとはな」


 響くガレアの声。

 そこに宿るは、冥府に対する嫌悪。

 自らの赤髪。

 それを吹き抜ける闇に揺らし、ガレアは思い出す。


 幼き日。

 先代の闇に語られたその存在は、冷たくそして無機質な闇をその特徴としている。

 この世界とは別の次元。

 そこに存在する、冥府という名の世界。

 光と闇の均衡。

 それが崩れた時、前触れなく現れるという冥府のモノ。


「冥府の闇?」


 首を傾げ、呟くフェアリー。

 そのフェアリーの反応。

 それに、魔物たちも続く。


「聞いたことないぞ」


「なんですか? その、冥府ってやつは?」


「ガレア様。詳しく教えていただけませんか?」


 ガレアの周囲。

 そこに集まり、口々に疑問を呈していく魔物たち。

 そんな魔物たちに、ガレアは応えた。


 赤色のオーラ。

 それを纏わせ--


「冥府。それは、世界を崩すモノ」


 呟かれたその言葉。

 同時に鋭くなる、ガレアの眼光。

 それに倣い、クリスの表情もまた引き締められる。


 己の腰。

 そこに収められた剣の柄。

 それを握り、侵食し広がる闇を見据えたクリス。


 逃げ惑う人々。

 混乱に陥る、王都。


「世界を崩すモノ? うーんっ、なんだか難しそう」


 事の重大さ。

 リリスはそれを理解できない。

 しかし、広がる闇が良いものではないと本能的に悟り、自らもまた戦闘態勢に入るリリス。


 ガレア。クリス。そして、リリス。

 その三人の表情と姿。

 それに、魔物たちもまた戦闘態勢に入る。


「未だ状況は掴めないッ、だが!! あの闇は我らにとって障害となるモノ!!」


「ここで侵食を止めッ、好きなようにさせるな!!」


「武器をとれッ、魔法の準備を!!」


 轟く魔物たちの声。

 それに呼応し、冥府の闇から湧き出る異形のモノたち。


「「ーーッ」」


 声にならぬうめき。

 それをあげるモノたち。

 それは全て、冥府の闇に飲まれた者たち。


 曰く。


「あの闇にね。触れたモノはみんな、みんな。冥府の加護を付与されるの。勝手に、ね? だからね、ふふふ。あのお城の人間モノはみんな……冥府わたしたちの、駒となる。加護を付与されたモノはみんな駒となる」


 鼻歌を囀り、闇と共にふわりとその場に姿を現した一人の少女。

 漆黒のドレスに、赤の両目。

 ガレアたちの視線の先。

 そこに佇み、己の影のように冥府のモノたちを従えるその姿。


 それはまさしく。


「冥府の女王」


「わぁ、うれしい。そうやって呼んでくれるの、貴女がはじめて」


 染み渡ったガレアの言葉。

 それに微笑み、ペルセフォネはぱちぱちと楽しそうに拍手を響かせる。


 だが、その瞳に宿るのは途方もない負の感情。


「こっちに来て、ペルセフォネはもう2回も殺されちゃいました。あの障害アレン。とても、とても。強いんだね。流石、勇者様。鬱陶しいほどに……厄介だ」


 忌々しく吐き捨て、ペルセフォネは手のひらをかざす。

 ガレアたちに向け。仮面のような笑みをその顔にたたえながら。


「なんだッ、お前!!」


 声を張り上げ、怒りを露わにするフェアリー。


「いきなり現れて訳のわからないことを--ッ」


「うるさい。羽虫ゴミ


 フェアリーの声。

 それを遮り、ペルセフォネは呟く。


 刹那。


 一体の異形のモノ。

 それが弓を構え、即座に矢を放つ。

 ペルセフォネの意思。

 それに呼応するように、フェアリーに向けて。


 飛来する、漆黒を帯びた矢。

 それにフェアリーは目を見開き--


 だが、その矢を。


「自惚れるなよ、ペルセフォネ」


 流れるように。一切の無駄なく投擲されたガレアの剣。

 その赤と闇に彩られた剣が、正確無比に弾き飛ばす。


 そして、ガレアは一歩前に踏み出す。


 赤と闇のオーラ。

 それをたぎらせ、「来い、冥府。魔王たる我の力、とくと見せてやる」そう声を響かせ、ペルセフォネへとその純然たる敵意を向けたのであった。


 〜〜〜

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