冥府の使者①
現れたそのモノ。
それをアレンは見つめる。
心眼の加護の付与された瞳。
それをもって、中身を探ろうとした。
しかし。
「ふふふ。見えた? わたしの心の中? わたしの、中。もっと見て。遠慮なんて。いらない」
アレンの脳内。
そこに奔流のように流れ込む、ペルセフォネの心の中。
それは、およそ常人には耐え難い負の濁流。
殺す。死ね。悲しい。どうしてあいつが。
嫉妬。悔しい。努力なんて報われない。
世界は残酷。奪われた。奪われた。
あんな奴。死ねばいいのに。
しかし、アレンの闇で染まった心にソレは通じない。
「冥府如きが」
一歩。
前に踏み出す、アレン。
それと呼応し、揺らぐ闇。
「強気。流石、わたしたちの障害」
微笑む、ペルセフォネ。
ペルセフォネの戯言。
そんなもの、聞くに値しない。
そう言わんばかりに、アレンは自らに加護を重ねがけしていく。
筋力の加護。
賢者の加護。
速度の加護。
視力の加護。
そして。
「どけ。雑魚」
吐き捨て、アレンはペルセフォネに向け手のひらをかざす。
「創造の加護、冥府殺しの剣。複製の加護をもって100本に」
アレンの周囲。
そこに展開される、冥府殺しの剣。
更に、アレンは続ける。
「巨大化の加護がふたつ」
漆黒の闇。
それに包まれ、倍の大きさになる100本の剣。
「巨大化の加護がみっつ」
三倍の大きさになる、剣。
ぱちぱち。
と響く、ペルセフォネの拍手。
「すごい。流石、障害。魔王より強い」
「……」
一歩。
前に踏み出す、アレン。
その表情は無機質。
視線の先。
そこに佇む、ペルセフォネ。
その命を奪う意思。それしか、その顔には宿っていない。
だが、ペルセフォネもまた退かない。
「勇者。人間、神、魔族。そのどれにも属さないモノによって選定された存在。あらゆる加護を操り、世界に光をもたらすもの」
楽しそうに呟き、その場に片膝をつくペルセフォネ。
「でも、今は。人間の本質に触れ、世界に闇をもたらすモノ」
己の声の余韻。
それを楽しむように、ペルセフォネは指でなにかを描こうとする。
石畳に。まるで指をペン代わりにして。
だが、アレンはそれを許さない。
「速度の加護を剣に付与」
剣に加護を付与し。
「射出」
ペルセフォネに向け容赦なく一本の剣を撃ち放つ、アレン。
その様。
それは罪人の首を切り落とす執行人のように、一切の躊躇いもない。
びちゃっ
ペルセフォネの胸。
そこを貫く、剣。
赤き血ではなく、黒き闇。
それを滴らせ、ペルセフォネは三度微笑んだ。
その微笑み。
それはどこか、アレンを嘲笑っているかのよう。
それに、アレンは続け様に剣を射出。
淡々と。
ペルセフォネをただの物体として。
二本。
三本。
四本。
五本。
アレンの意思に呼応し、射出され続ける剣。
そしてその身を穿たれ続け、原型を留めなくなっていくペルセフォネ。
闇が滲み、溜まりになって周囲へと広がる。
だが、アレンの表情は一切変わらない。
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