王都④
〜〜〜
「アレン。あれん」
王城へ向け進む、アレン。
その姿を見つめ、声を漏らす一人の少女。
風にその髪を揺らし、目を見開くその姿。
それは明らかにただの人間ではない。
漆黒に濡れたドレス。真紅の双眸。
そしてその小さな肩。
そこには一羽の鴉が止まっている。
城の頂。
王都で最も空に近い場所。
そこに、その少女は佇んでいた。
「かぁかぁ」
少女の耳元。
そこで鳴き声を漏らし、翼を揺らす鴉。
それはまるで、これよりはじまる勇者の復讐を心待ちにしているよう。
そんな鴉の姿。
少女はそれを一瞥し、自らもまた妖し気にその頬を緩ませたのであった。
〜〜〜
固唾を飲み、閉じられた鉄扉を見つめる面々。
既に城は半壊。
至る所より火の手があがり、もはや城は陥落間近。
しかし、兵たちは諦めない。
皆、その手に剣を握り--
「我らの命ッ、それは王の為に!!」
「「おぉぉ!!」」
響く掛け声。
それに兵たちは応え、自らを鼓舞していく。
彼等は知らない。
自分たちが命を賭し守ろうとしている、王。
それが今、得体の知れぬナニカの加護を受けているということを。
しかし、その何も知らぬ兵たちの勢い。
それを、押し倒された鉄扉が消沈させる。
まるで枯葉のように、軽く。
指はじきひとつで鉄扉を押し倒し、それを踏み締めるアレン。
そのアレンの眼差し。
そこに宿るのは、闇。
そしてその身から漂うのは、混じり気のない殺気。
「……っ」
息を飲み、無意識のうちに後退をはじめる兵たち。
その姿。
それは、眼前に迫る捕食者。
それに無抵抗を余儀なくされた被捕食者そのもの。
そんな兵たちに、アレンは問いかけた。
「その加護は誰のモノだ?」
アレンの問い。
それに顔を見合わせる、兵たち。
「答えろ。ソレは誰のモノだ」
兵たちにかかった、装備の加護と剣術の加護。そして、鼓舞の加護。
それはアレンの知っている加護ではない。
どこか暗く。そして、冷たい。
かつてアレンは王城を訪れた。
その時、感じた加護。
それとは全く違う、およそこの世のモノとは思えぬ異質な加護。
こちらに向け投げかけられた不可思議なアレンの問い。
それに顔を見合わせ、兵たちは声を響かせる。
自らの心。
それを懸命に奮い立たせ--
「なッ、なにを言っている!? 我らにかかっているのは聖騎士様の加護!!」
「この城を守護しッ、この王都をお守りする誉れ高き騎士様!!」
「勇者ッ、お前も知っているはずだ!!」
小刻みにその身を震わせながら。
その響いた声。
それを聞き、アレンは拳を固める。
そして。
「創造の加護がひとつ」
呟き、その手に聖剣を握ったアレン。
そんなアレンに向け、兵たちは駆け出そうとした。
剣を構え、命さえも捨てる覚悟をもって。
そして更に、何者かによって兵たちに付与される速度の加護。
響く、兵たちの猛り声。
アレンに迫る、漆黒に染まりつつある兵たちの姿。
アレンはしかし、動じない。
「回避の加護」
自らに加護を付与し、アレンは兵たちの攻撃全てを受け流そうとした。
そして、アレンと兵たちがぶつかろうとした時。
それは、起こる。
アレンの眼前。
そこで兵たちが剣を振り上げた、瞬間。
「そろそろ。限界」
そんな澄み切った声。
それが響いたかと思えば、次々とその場に崩れ落ちていく兵たち。
漆黒に飲まれ、兵たちは声さえもあげれず瓦解していく。
その様。
それはまるで、闇に飲まれ灰と化していく人間そのもの。
「普通の人間。わたしたちの加護。四つが限界。ひ弱」
ぺたぺた。
浸み渡る、素足の足音。
「ふふふ。はじめまして、人間。ううん。障害って言ったほうが正しい。かな?」
幼い声。
それを響かせ、アレンの視線の先に現れた者。
それは、やはり。
人ならざる--
「ペルセフォネ。ぺるせふぉね。それが、わたしの名前。ふふふ。冥府。めいふからやってきました」
冥府からの来訪者だった。




