王都③
〜〜〜
「あらゆる手。それを打つべきだ」
「そうだッ、そうだ!!」
「魔物の勢いッ、それは我々の想像を遥かに上回るもの!!」
「聞くところによると勇者と剣聖ッ、そしてリリスッ、その三人も魔王側についたと聞く!!」
玉座の間。
そこに響く怒声と焦りの声。
そして、その声を響かせる者たちの表情。
それは一様に焦燥に満ちていた。
「王よッ、今こそ決断の時!!」
「さぁッ、ご決断を!!」
王の眼下。
そこで礼節さえも忘れ、声を張り上げる面々。
皆、ローブを纏いいかにも高貴そうな雰囲気を漂わせている。
その者たちに、王は告げた。
「処刑じゃ」
「はい?」
「我に対するその振る舞いッ、実に不愉快!! 王である我に対するその態度ッ、不敬にも程があるわ!!」
立ち上がり、王は眼下の者たちに怒りを露わにする。
その王の言葉。
それに倣い、突如として現れる漆黒に包まれた者たち。
「な、何者だ」
「お、王よ。その者たちは一体?」
「……っ」
目を丸くする、眼下の者たち。
王は応える。
「彼等は我の新たなるしもべ」
「新たなるしもべ?」
「お、王よ。貴方は一体」
後退り、玉座の間から逃げ出そうとする面々。
だが、王はそれを許さない。
「一人残らず処刑じゃ。者共ッ、首を刎ねるのじゃ!!」
漆黒の者たち。
それに下される、王命。
瞬間。
空間から闇色の剣を抜き、彼等に向け歩み寄っていくそのモノたち。
「ば、化け物」
「に、逃げろ!!」
「おッ、王もまたあちら側に!!」
血相を変え、側近たちは逃げ出そうとする。
だが、それを。
「言ったであろう。一匹残らず処刑だとな」
王の声。
それが遮り、玉座の間の入り口。
そこにも闇に染まった者たちが現れる。
尻餅をつき、声さえもあげれない面々。
その力無き者たちに振り下ろされようとする、漆黒の悪意と殺意。
高笑いを響かせる、王。
だが、ソレを--
無慈悲な勇者の攻撃。
それが遮る。
轟音。
それが響き、天井に穿たれたのは龍のカタチをした漆黒の稲妻。
瓦礫すら残さず降り注いだソレ。
それはまさしく、神代の稲妻そのものだった。
〜〜〜
遡ること数十分前。
創造の加護。
それにより創られた、空中要塞。
その上に佇み、アレンは王都を俯瞰していた。
そのアレンの側。
そこには魔物たちと、ガレア。
そしてクリスも佇んでいた。
逃げ惑う人々。
愚かにも弓を引く弓兵の集団。
城の門を開き、ぞろぞろと行進してくる兵士たち。
どうやらこの王都には未だ、何者かの加護がかかっているようだ。
皆、装備をしている。
戦争。
いや、これからはじまるのは勇者による一方的な蹂躙。言うなれば、蟻と象の戦い。
アレンは空中要塞へと意思を表明する。
“蹴散らせ”
その意思を受け、放たれるは幾筋もの閃光。
龍の形をとったそれは次々と街と城へと降り注ぎ、王都の人々に抵抗する暇も与えない。
黒煙があがり。
炎があがり。
空を切り裂く人々の悲鳴。
しかし、アレンは手を緩めない。
ここで手を抜けば、あの光景となにも変わらない。
黒く染まった村の姿。
燃える故郷。
涙を流し悪意の炎に包まれた、ソフィの姿。
ゴウメイにより聞かされた故郷の最期。
同時に噛み締められるアレンの唇。
同時に放たれるは、巨大な雷。
神代の空中要塞は、アレンの意のままにその力を奮う。
瓦解していく街並み。
城は半壊し、絶望に伏せていく兵士たち。
勇者の加護。
その前では、人々の抗いなど意味をなすはずがない。
“着地する”
アレンは意思を表明し、空中要塞をゆっくりと下界へと降ろしていく。
後は自分の手で――
“「耳障りな戯言を」”
などと、ソフィを貶め処刑した王とにその落とし前をつけなくてはならない。
閃光を撒き散らし、着地した空中要塞。
重々しい音共に、空中要塞は降りたつ。
そしてその地点には巨大なクレーターができ、瓦礫が山のように溢れ出ていた。
“破壊中断”
アレンはそう空中要塞に意思を留め――
「決着は俺がつけます」
「うむ」
「後のことは任せてくれ」
魔物たちもまた、アレンの意思に頷く。
ガレアとクリス。
そして魔物たち。
その意思に頷き、アレンは廃墟と化した王都へと一人降り立つ。
そのアレンの姿を見定め、生き残った人々は悲鳴にも似た声をあげる。
「勇者アレンッ、お前か!! お前がやったのか!? 水がでなくなったのも魔法が使えなくなったのもッ、全部、てめぇのせいだろ!?」
「なんてことをしてくれたのッ、わたしたちの生活をメチャクチャにしやがって!!」
「さっさと魔王を倒してくれりゃでよかったもののッ、こんなふざけた真似を!!」
だが、その声にアレンは応えることはしない。
代わりに足元に転がった拳大の瓦礫を掴みとり――
「貫通の加護」
そう呟き、“あらゆるモノを貫通する”瓦礫を思いきり投擲する。
投擲された瓦礫。
それはただの石の塊から漆黒を纏う魔石となり、叫びをあげた人々の間をすり抜ける。
そして、遥か彼方の山々を貫通しこれでもかとばかりに大きな火花をあげ粉々にくだけ散った。
その光景を目の当たりにし、人々は膝から崩れ落ち小刻みにその身を震わせる。
そんな人々へと、アレンは声を投げ掛けた。
「次は当てるぞ」
その言葉。
それに人々は理解した。
勇者は、もうあのアレンではないということを。
あの――
正義感に溢れ、その瞳に希望をたたえていた勇者ではないということを、理解した。
アレンは進む。
半壊した城に向かって、その目に決意を宿しながら。
情けなどかけない。
情けなど、かける価値もない。
この力で全てを覆す。
この力で、世界を変えてやる。
アレンの胸に宿るは揺るぎない信念。
勇者としての、世界を変える者としての強い思い。
荒れ狂うは勇者の加護の力。
その圧倒的なアレンの姿。
それに兵たちは地に額をつけ、「命だけは」といわんばかりに許しを乞う。
アレンはそんな人々に、声を残す。
「ソフィも。あの村の人々をそうやって許しを乞うたはずだ。てめぇらを信じ、世界を信じ続けた。それをてめぇらは――」
“「燃やせ」”
“「殺せ」”
“「穢らわしい」”
蘇る、心の中に響く声。
足を止め、アレンは頭を抑える。
握りしめられるアレンの拳。
しかし、アレンは兵たち向ける敵意を堪えた。
この有象無象をいくら蹂躙したところでなにも変わらない。
変える為には、王を潰す。
そう自分に言い聞かせ、アレンは再び歩みを進めるのであった。
半壊した王城。
それをその瞳に見据えながら。




