王都②
各地に飛び、行動を開始したヴァルキリーたち。
その念話を介した報告。
それを、アレンは聞く。
歩を前に進めながら、その表情を一切崩すことなく。
「アレン様。マーリンの拘束及び魔王城への帰還、完了しました」
「この者の処遇。それはいかように?」
「いやだッ、わたしはまだ死にたくない!! 助けてッ、お願い!! なんでもする!! なんでもするからァ!!」
アレンの脳内。
そこに響くヴァルキリーたちの声と、その聴覚を通じこだまするマーリンの悲痛な叫び。
ヴァルキリーたちの視界。
そこにうつるのは、両手を手錠で繋がれ涙目を晒すマーリンの姿。
そこには、ない。
"「真の賢者。ここに現れり」"
あの時の賢者の面影。
それは欠片もなかった。
「大人しくしろ」
「はッ、はい!!」
正座をし。
「……っ」
かちかちと歯を鳴らし、ぽたぽたと涙をこぼすマーリン。
その光景。
それにアレンは命を下す。
ヴァルキリーたちに向け--
「賢者。その人間はこちら側にとって利益がある存在です。精神的に追い込めばなにをするかわかりません。ですので、あまり追い込まないであげてください」
「かしこまりました」
「仰せのままに」
「無理を言ってすみません」
「いえ。アレン様にそのような思いがあるのなら」
アレンの意。
それを受け、ヴァルキリーたちはマーリンの手錠を解いていく。
「あ、ありがとうございます。寛大なご処置。身に沁みる思いです。わ、わたしの頭脳。それは魔物たちの為に」
その場で魔物側に翻り、マーリンは少しだけ表情を緩める。
そんなマーリンの姿。
それをヴァルキリーの視覚を通じ見つめ、アレンは締めくくった。
「またなにかあればご報告お願いします」
「了解しました」
「ところで、アレン様」
「はい」
「これからどちらに向かわれるご予定でしょうか?」
ヴァルキリーの問いかけ。
それに、アレンは応える。
「王都です」
「王都、ですか」
「はい」
「遂に、奴等との決着をつける。ということですね」
ヴァルキリーの言葉。
それを飲み込み、アレンは更に続けた。
「これで決着がつけばいい。ですね」
ランスロットの過去。
そして、あらゆる加護の存在。
アレンはそれに思考を巡らし、決着がつくのはまだ先だろうという認識を示す。
それを聞き、ヴァルキリーたちは頷いた。
「はやく。つけばいいですね」
「あまりご無理をなさらずに」
アレンの思い。
それを汲み、ヴァルキリーたちはアレンの心に寄り添う。
それにアレンは、「ありがとうございます。また、なにかあれば」と言葉をかけ、足を止める。
「では、わたくしたちは」
「またなにかご命令があれば心置きなく」
「はい」
念話を交わし、アレンはヴァルキリーたちとの念話を遮断。
そして。
「マーリンの確保。及び、翻意を確認しました」
そう声を響かせ、マーリンがこちら側についたこと。
それをアレンは側に立つガレアに報告する。
それに、ガレアは頷く。
「賢者。我も名だけは聞いたことはある。姿は見たことはないが」
そのガレアの声。
それにリリスは興奮する。
「マーリン!? あの賢者がこちら側に!? すごいッ、百人力!!」
賢さ0。
しかし、己が憧れていた賢者の存在だけは忘れてはいないリリス。
「剣聖に賢者。そして、魔王様に勇者。すごく強い!!」
「あぁッ、そいつはすげぇ!! リリスの興奮する気持ちもわかるぜ」
リリスの興奮。
それにフェアリーもまた同意。
そんな二人の歓声。
魔物たちも流れに任せ、歓声をあげる始末。
その雰囲気の中。
しかしアレンの表情は変わらない。
ただその視線が見据えるは、王都の方向。
そしてその瞳に宿るのは、光ではなく混じり気のない純粋な闇。
ひとつめの決着。
それをつける決意を固めた一人の人間としての表情。
それがそこにはあった。




