王都①
「こうなれば敵なしだ」
「はやくッ、前に進もう!!」
「ワオーン!!」
アレンの加護。
それを受け、勢いづく魔物たち。
「このまま王都へと向かおうッ、回り道なんて必要ない!!」
「そうだそうだ!!」
「さっさと王都を攻め滅ぼしッ、新たな世界を創るのだ!!
我ら魔物を中心にした素晴らしき世界!! それをはやく創るのだ!!」
熱気に包まれ、今にも駆け出しそうな勢いの面々。
その面々に、しかしフェアリーは流されない。
「うーん。王都を攻め滅ぼしたぐらいで新たな世界なんて創れるのか? 世界はめちゃくちゃ広いんだぜ? 王都もひとつだけじゃ--」
しかしそれを遮る、リリスの声。
「創れる?じゃないッ、創るんだ!!」
「「そうだそうだ!!」」
リリスの言葉。
それに、魔物たちは威勢よく同意を露わにしていく。
その光景。
それを見つめる、アレンの表情。
それはどこか悲しげで、そして柔らかい。
〜〜〜
"「ねー、アレン。わたしたちがおおきくなったらね。世界はどんな風にかわっているのかな?」"
"「うーん。わかんない」"
"「でもね、ソフィは。いくら世界がかわってもアレンが居るだけでそれでいいんだ。もしアレンが消えちゃったら……つくるんだ!!」"
"「なにを?」"
"「世界を!!」"
"「えーっ。へんなの!!」"
星空。
それを見つめ、二人で笑いあった幼きあの日。
〜〜〜
そのアレンの肩。
そこにフェアリーは腰を下ろす。
そして。
「まっ、勇者様。色々と思うことはあるかもしれねぇ。だが、ここはぐっと堪えて前に進もうぜ? な? このフェアリー様がついてるんだ」
そう声をかけ、アレンを励ますフェアリー。
そのフェアリーに魔物たちもまた次々と賛同していくのであった。
***
とぼとぼと独り、自らの小屋へ向かい歩くローブ姿の一人の少女。
名はマーリン。
数時間前。
アレンによって、完膚なきまでにその自信を砕かれた賢者その人だった。
自らの肩。
それを抱き、
「あ、あんな奴が居たなんて」
マーリンは呟く。
アレンの圧倒的な力。
それを思い出し、未だ身体の震えが止まらない賢者。
その幼い顔に滲むのは、アレンの面影に対する恐怖と恐れ。
複製の加護。創造の加護。
そして、巨大化の加護。
その三つの加護を操り、汗一つかかずに自分を追い詰め、最後には奪の加護さえも発動。
そして、心眼と賢者、加えて変化の加護さえも己のものとした、勇者。
「勇者の力。書物で読んで知ってるつもりだった。で、でもアレは」
明らかに自分の予想を超えていた。
加えて闇に染まったあの姿。
間違いない。人の世界はあの勇者の手によって、終わる。
確信し、マーリンはとんがり帽子を深く被り直す。
「こ、このままひっそり引き篭ろう。う、うん。それがいい」
胸中で呟き、早歩きになるマーリン。
そんなマーリンの進行方向。
そこに降り立ったのは--
「アレン様の命により、貴女を拘束します」
「賢者。その頭脳を野放しにすることは危険。いつ人間共に利用されるかわかりません」
二人のヴァルキリー。
漆黒の双翼を揺らすその姿。
それはまさしく、闇の使者そのもの。
その二人のヴァルキリーの澄み切った声と視線。
それを受け、マーリンは思わず後ずさる。
「えっ? そ、その。貴女たちは?」
「わたしたちは」
「アレン様によりカタチを与えられた者」
二人揃って口を開く、ヴァルキリー。
その響いた言葉。
それに、マーリンは更に後ずさる。
「か、カタチを与えられたモノ? ど、どうやって?」
「変化の加護」
「へ、変化の加護? でもアレは一度に複数の対象には使えないはず。わたしだって二つまでしか--」
そこでマーリンは目を見開く。
「も、もしかして」
「はい」
「アレン様は一度に10000の対象に変化の加護を付与しました」
「……っ」
息を飲み、改めてアレンの凄さをその身に刻むマーリン。
そのマーリンのすぐ側。
そこに近づき、二体のヴァルキリーはマーリンを両脇より抱える。
そして。
「マーリンの拘束を完了」
「これより魔王城へと帰還します」
そう声を響かせ、マーリンを抱えたまま空へと魔王城の方向へと飛び立っていく。
マーリンは顔を青ざめさせ、「死にたくない死にたくない」と涙目で叫ぶことしかできない。
しかし、ヴァルキリーたちの表情。
そこには殺意は微塵もないことに、マーリンは気づく由もなかった。
***




