共有①
殲滅の矢。
その力の前に、兵士たちは次々とその命を散らしていく。
ある者は首を。
ある者は心臓を。
そしてある者は頭を。
たった一本の矢に蹂躙され、屍と化していく兵士たち。
その光景。
それにメリウスはしかし、抵抗を試みようとした。
自らもまた矢を弓に込め--
「撃ち落としてやる。このメリウスの命。そう安くはないぞ」
致死。必中。
二つの加護を矢に付与し、メリウスは殲滅の矢を射抜かんとする。
狙いを定め。
呼吸を整え。
矢を放とうとした、瞬間。
"「複製の加護がふたつ」"
メリウスの脳内。
そこに響く、アレンの声。
刹那。
殲滅の矢。
それが二本、複製される。
「……っ」
息を飲み、複製された二本の矢に後ずさるメリウス。
だが、そこに更に響く声。
"「複製の加護が10」"
10本に増える、殲滅の矢。
それらが全てメリウスの周囲に展開し、全ての急所に狙いを定める。
「なにが起こっている」
10本の矢。
それを見つめ、思わず声を漏らすメリウス。
その声に、アレンは応えた。
"「俺に念話を飛ばした時点であんたの負けだ」"
「な、なんだと?」
"「俺を舐めるなよ、メリウス。共有の加護であんたの五感は既に俺と共有されている。覚えているか? 威勢よく俺に声を飛ばした、自分の行動を」"
無機質なアレンの声。
それにメリウスは己の行動を思い出す。
〜〜〜
「目障りなモノ。その湖騎士の元に行きたければさっさといけ」
〜〜〜
確かに自分はアレンに念話を飛ばした。
だが、たったそれだけで--
"「たったそれだけで、充分だ。後はあんたの視覚を通じて見た光景。そこに複製の加護を付与すればいいだけ」"
心眼の加護。
それをもってメリウスの心を読み、更に念話を飛ばすアレン。
血の気を引かせ、メリウスは叫ぶ。
「そんなことができる存在などッ、この世界に存在するわけがない!! 視覚を共有しッ、その光景に更なる加護を付与するだと!?」
歯を食いしばり。
「馬鹿げたことを抜かすなよッ、勇者!!」
"「なら、現実を見せてやる」"
メリウスの虚勢。
それにアレンは終止符を打つ。
"「複製の加護が1000」"
瞬間。
メリウスを囲む、殲滅の矢。
その数が1000本に複製。
"「複製の加護が10000」"
「……っ」
10000本に膨れた矢。
それに戦意を喪失し、その場に崩れ落ちるメリウス。
その光景。
それをメリウスの視覚を通じ、アレンは見る。
そして。
"「死ね」"
そう短く呟き--
メリウスの身体。
そこに向け、10000本の矢を容赦なく射出したのであった。
なすすべもなく、命を射抜かれるメリウス。
その様。
それはまさしく、アレンの揺るがぬ意思。
殲滅の意思の現れでもあった。




