反転攻勢④
最弱と罵った魔物たち。
そのモノたちに蹂躙される、人間たち。
勇者の加護。
それが無き今。
人間たちはスライム一匹とさえまともに戦えない。
スライムたちの突撃。
それにより枯葉のように舞い上がり、空飛ぶワイバーンの群れに弄ばれる兵士たち。
ゴブリン剣士。
その一撃は人間にはおよそ受け止めることのできぬ斬撃。
ザシュッ
次々と装備ごと真っ二つにされていく、兵士たち。
その亡骸。
それをダークラビットは跳躍で踏みつける。
ドシンッ
ドシンッ
そして、ガーゴイルの咆哮。
それを加護なき人間が聞けば、錯乱に陥る。
「うッ、うわぁぁぁ!!」
「助けてくれぇ!!」
「強いッ、強すぎる!!」
叫び。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく、兵士たち。
だがそれを許さない、ダークウルフ。
「ワオーン!!」
遠吠え。
それを響かせ、逃げる兵士たちの行手へと跳躍。
そして。
プチっ
兵士たちを踏み潰し、ダークウルフはその肉塊を貪る。
その光景。
それを見つめ、しかしアレンの表情は変わらない。
自身の手のひら。
それをかざし--
「加護を与える」
声を響かせ、ダークウルフを更に強化するアレン。
震える大気。
そして、数秒後。
ダークウルフはケルベロスへと変貌。
天を裂く、咆哮。
それはまるでアレンの心を代弁しているかのよう。
「アレン様、この村の兵士たちは既に壊滅。この村は既に我らのもの」
「「おぉぉぉ!!」」
フェアリーの声。
それに呼応し勝鬨をあげる、魔物たち。
その魔物たちの鳴き声。
それを聞きながら、アレンはしかし表情を崩さない。
「勇者の加護。それはこの程度ではない」
呟き。
「魔力という概念。それを与えていたのも加護の賜物。当たり前のように人間共が魔法を使えるのも今日この瞬間までだ」
アレンは人間に与えていた魔力という名の加護も解除。
そして更に。
「この加護。それを魔物たちに付与」
声を響かせ、魔物たちに魔力という概念を与えるアレン。
途端。
全世界に蔓延る魔物たち。
その今まで魔法とは無縁だったモノたち全てが魔力を得、魔法を使えるようになる。
「こ、この力」
今まで感じたことのない力。
それにフェアリーは感動。
そして居並ぶ魔物たちも皆、歓喜の咆哮を響かせた。
その咆哮。
それを聞き、アレンは瞼を閉じる。
念話発動。
そして。
「魔王様。聞こえますか?」
「ん? 勇者の声が我の頭の中に?」
「これから先。魔物の皆さんも魔法を使えます。なので、更に。反転攻勢は捗ります」
「な、なんだと。で、では……我の頭の中にアレンの声が響くのもその魔法の賜物なのか?」
「これはテレパシーという名の魔法です」
「す、すごいではないか。これもお主の加護なのだな」
「はい」
頷き、アレンはガレアに続ける。
「人間たちはもう魔法は使えません。魔法使いとかいう舐めた人間。その連中もスライム一匹にも劣ります」
「そうか。はっはっはっ。さすがだ、勇者よ」
「当たり前のことをしたまでです。勇者の加護がなければ、人間はなにもできない。それを理解した時には、もう手遅れ」
そして、アレンは歩を進める。
ガレアに向け--
「村外れの森。そこに兵を進めてください」
「了解だ。そこに敵がいるのだな?」
「はい」
そう会話を交わし、アレンは魔物たちを引き連れ森へと向かっていったのであった。