人の闇③
更に強くなった魔物たち。
その姿を見つめ、微かに震えるランスロット。
顔に生気は無く、あるのは自分自身に対する諦め。
へたり込み。
虚な瞳で、ランスロットは勇者へと視線を向ける。
生かされた。
いや、アレンは確かに--
わたしを殺そうとした。
一片の光もない闇色のアレンの双眸。
それを思い出し、心の底からアレンを恐れるランスロット。
勇者は魔物側。
何故、寝返ったのか。
勇者になにがあったのか。
そこで、ふとランスロットは思い出す。
"「ランスロット様。王より招集がかかりました。なんでも見せたいモノがあるとか」"
"「見せたいもの?」"
"「はい。ひとつの村が反逆罪により焼き討ちになるとのこと」"
"「それが見せたいもの?」"
"「おそらく」"
"「行きたくない。興味すら湧かない」"
"「承知いたしました。その旨、お伝えしておきます」"
今思えば、アレがその原因なのかもしれない。
焼き討ちになった村。
勇者となにか深い関係のある場所。
そんなランスロットの側。
そこに佇み、クリスは口を開く。
未だ震えたままのランスロット。
それを一瞥し、まるで独り言を呟くように。
「人間と魔物。果たしてどちらが闇なのか」
「魔物に。決まっている」
ランスロットの頬に流れる一筋の涙。
「わたしの全てを奪った闇。あの闇を。あの姿を。わたしは絶対忘れない」
「それは果たして。本当に魔物だったのか?」
「魔物以外になにがある」
「……」
クリスは応えず、静かに空を見つめる。
そして、ゆっくりと声を吐き出した。
「人間の心に宿る闇。それは、俺が思っている以上に深くそして、澱んでいた」
アレンの口から語られた人の所業。
それを思い出す、クリス。
その響いたクリスの言葉。
それをランスロットは、勇者を虚な瞳で見据えながら聞いた。
一言も声を発することなく。
ただその瞳から壊れた蛇口のように涙を滴らせながら。
そんなランスロットの側。
そこに、近づいてくる一匹のスライム。
「きゅっ」
「わたしに寄るな」
「きゅ……っ」
ランスロットの淡々とした声。
スライムはそれに、寂しそうに身体を震わせる。
そこへ次々と近づいてくる、スライムたち。
スライムたちはランスロットの周囲へと集まり、まるでランスロットに寄り添うような素振りを見せた。
その姿。
それにランスロットは、疑問を抱く。
「何故。わたしに寄り添う」
「きゅっきゅっ」
「わたしは。あなたたちを殺そうとした」
「きゅっ」
「離れたほうがいい」
スライムたちを見渡し、少し柔らかな声を響かせたランスロット。
そして、ランスロットがゆっくりと立ちあがろうとした瞬間。
それは、起こる。
金色に輝く矢。
それが風を切り、ランスロットへ向かい飛来。
まるで獲物に向かい放たれた、殺意の宿る狩人の矢のように。
その気配。
それを感じ、ランスロットは振り返ろうと--
刹那。
飛び散る鮮血。
ランスロットの首。
そこに撃ち抜かれた、金色の矢。
同時に、ランスロットはその場に両膝をつく。
糸が切れた人形のように。
どさりと。
己の血。
それに全身を濡らし、虚な瞳で首を抑えながら。




