湖騎士⑥
ランスロットの心の乱れ。
それにより、水の加護もまた揺らぐ。
静かな湖面。
そこに小石が投げ込まれ波が波紋となって広がるように。
呼応し、魔物たちを束縛していた水の鎖。
それもまたゆっくりと瓦解していく。
ぽたぽたと。
それはまるで日の光で解かされる氷を思わせる。
「か、身体が動くぞ」
「今が好機ッ、奴の首を取るぞ!!」
「ワオーン!!」
身体への束縛。
それが和らぎ、魔物たちは一気呵成にランスロットへとそれぞれの武器を向けた。
しかし、そこはフェアリー。
「落ち着くのだッ、まだ油断してはいけない!! 奴の力ッ、それを甘くみてはならない!!」
魔物たちのすぐ上。
そこを飛び回り、フェアリーは魔物たちを制する。
見たところ。確かにランスロットの様子は変わった。
だが、それでも。
「奴の操る得体の知れぬ加護ッ、それがいつ元に戻るかわからない!! 我らだけの判断で突撃し無駄死にすることッ、それはあってはならない!!」
声を張り上げる、フェアリー。
それに、リリスはなぜか拍手。
「すごいっ。さすがフェアリーさん。伊達に魔王さまの右腕を名乗っているだけのことはある」
ぱちぱち。
その拍手の音。
それを聞き、魔物たちも釣られて拍手をする。
「さすがフェアリーさんだぜ」
「危うく本能のままに突撃するところだった。危ねぇ危ねぇ」
「くうーん」
「きゅっきゅっ」
フェアリーの決断。
それに賛辞或いは鳴き声を送り、次々とランスロットへの攻撃の意思を収めていく魔物たち。
その自分を褒め称える雰囲気。
しかし、フェアリーは敢えて表情を引き締め--
「指示を仰いでくるッ、それまではその場で待機!!」
そう命を下し、ガレアとアレンの元へとぱたぱたと飛んでいく。
そして。
「ガレア様」
「そして、アレン様」
それぞれの耳元。
そこで二人の名前を呼び、「あの者の処遇。それは如何様に?」フェアリーは指示を仰ぐ。
降り注ぐ、雪。
それを見つめ、虚な瞳を晒すランスロット。
そしてその頬。
そこには、ランスロットの意思とは無関係に何筋もの涙が滴っている。
まるで、壊れた蛇口のように。ぽたぽたと。
〜〜〜
雪の多い村。
ランスロットはそこで生まれ育った。
積もった雪に飛び散った赤い鮮血。
目の前で、闇を纏ったその者に全てを奪われたあの日。
その者は、幼きランスロットを見つめ--
"「闇を憎め。それができなければ、死を選べ」"
そう声をかけた。
それだけを覚え。
温かな記憶。そして、大切な人との思い出。
それら全てに蓋をし、ランスロットは霜焼けの小さな手のひらに剣を握り村を離れた。
騎士であり亡骸になった父の剣。
震え、その光を無くした瞳からぽたぽたと涙をこぼしながら。
そして、たどり着いた湖。
そこで--
彼女は、加護を得た。
〜〜〜
「水の加護」
痛む心。
それを無理やり抑え、ランスロットは呟く。
「わたしは、憎む。闇。そして、それに靡く者たち全て。舐めるな。舐めるな。わたしの心を見透かしたぐらいで。いい気になるな」
涙を流し震えながら、決して忘れ得ぬ憎悪を吐き出すランスロット。
温かな記憶。そして、暖炉の火に照らされた大切な人たちの微笑み。
それらに三度、ランスロットは蓋をしようとした。
「死ね、アレン。死ね、ガレア。消えろ、魔物共」
響く声。
それに応えるは、大気中の水分。
ランスロットの意思に倣い、ソレは集まり空を覆う巨大な龍へとそのカタチを変えていく。
その巨大な水龍を見つめ、アレンは表情を変えず手のひらをかざす。
そして。
「賢者の加護--炎剣。巨大化の加護がひとつ」
そう二つの加護を同時に呟く、アレン。
そして、水龍に負けず劣らずの巨大な炎剣。
それを創り巨大な水龍に向け--
「速度の加護が10000」と更に加護を付与し、躊躇いなく射出したのであった。




