湖騎士⑤
アレンの頷き。
その仕草を見つめ、ランスロットもまた頷く。
「そう、それでいい。殺す。殺される。そのやり取りに下手な感情はいらない」
氷を思わせる声音。
それをもって己の意思を鮮明にし、天へと視線を向けたランスロット。
そして。
「纏めて殺す。守れるモノなら守ってみせろ、勇者」
呟き。
街全体を覆うほどの水の剣。
それをランスロットは、空一面に展開する。
それを見つめ、アレンはしかし動じない。
アレンの余裕。
それに舌打ちをし。
「降り注げ」
展開した剣。
それに命じたランスロット。
無限を思わせる、水の剣。
それがランスロットの命に応え、降り注ぐ。
それこそ雨のように。
ランスロットの「許さない」という思い。
それを代弁するかのようにして。
「ひぃぃぃ」
「し、死ぬ」
「は、反則だろ」
「クゥーン」
「きゅ……っ」
魔物たちはたじろぎ、死を覚悟。
「お、おい!! リリスッ、なんとかしろよ!!」
「うーん。できたら苦労しないんだよ?」
「元魔法使いだろ!? け、結界とか張れねぇのか?」
「結界ってなに? ケーキなら大好きだけど。ふふふ」
「……っ」
命の危機。
それが間近に迫っているにも関わらず、危機感0の賢さ0のリリス。
それにフェアリーは死を覚悟し、涙目で迫る水の剣を見つめることしかできない。
だが、そこに。
「変化の加護。雪」
響く、確信に満ちたアレンの声。
そして、発動される変化の加護。
それにより、ランスロットにより展開され降り注ぐ無限に近い水の剣。
それらが全て雪へと変化。
途端。
ランスロットの表情。
それがほんの少し、揺らぐ。
"「寒いか? ランスロット。帰ったら暖炉であったまろうな」"
「雪。どうして。なに?」
立ち尽くし。
頭に浮かんだ声。
それに対し、独り問いかけるランスロット。
ふわりと降り注ぐ、雪。
それは、ランスロットの殺意とは対照的にゆっくりと下へと積もっていく。
手のひらを差し出し、雪へと触れるガレア。
ただ静かに空を見つめ、降り注ぐ雪を頬で受けるクリス。
そして呆気に取られる魔物たちと、リリス。
その中にあって、ランスロットはなおも殺意を表明しようとした。
「みんな、いらない。裏切った勇者。寝返った人間。そして、魔物共。全員いらない」
だが明らかに。
ランスロットの様子は違っていた。
「み、水の加護。操作」
アレンを見据え、体内の水分を操り即死させようとするランスロット。
しかし、触れる雪の冷たさ。
それがランスロットの心を惑わせる。
"「おおきくなったらゆうしゃさまになるんだ」"
"「それでね。やみ。まおう。をたおすの」"
"「ぱぱとままも。わたしといっしょに」"
「……っ」
頭を抑え。
ランスロットは、自ら蓋をし閉ざしたはずの記憶に苛まれてしまう。
そのランスロットの姿。
それを見つめる、アレンの瞳。
そこには--
「心眼の加護が10000」
心の奥の奥。
その更に奥まで見透かし、忘れたはずの蓋をしたはずの消えたはずの記憶さえ見ることができる心眼の加護がかけられていた。




