湖騎士④
風の加護が10000。
その響いた声が意味すること。
それは、文字通りの風の猛威。
風速10000メートルの風。
それがアレンを起点に下から上へと吹き抜け、街に墜落しそうになっていた要塞を一気に空へと押し戻す。
そして更に、横向きの風が吹き抜けアレンが創造した10もの空中要塞が遥か彼方へと吹き飛ばされる。
まるで、蒲公英の種のように。
それこそ、軽々しく。
言葉を失う、兵士長。
ランスロットも確かにすごい。
だが、アレンのソレもまたランスロットに負けず劣らず凄まじい。
「……っ」
その場から兵士長は逃げ出そうとする。
この場に居たら、命がいくつあっても足らない。
そんな表情をたたえながら。
しかし、そこに。
「風の加護。鎌鼬」
「えっ?」
兵士長の頬。
そこに走る裂傷。
そして、更に。
「風の加護。竜巻」
「!?」
兵士長の足下。
そこから竜巻が巻き起こり、兵士長はそれに巻き込まれくるくると回転しながら空へと上昇。
そのまま吹き飛ばされ、「ひぃぃぃ」という声と共にその場から退場させられたのであった。
残るは、ランスロット。
その顔は相変わらずの無表情。
だが、確かに。
「流石、勇者」
そう呟かれた、ランスロットの声。
そこには僅かにアレンに対する敬意と失望が込められていた。
しかし、アレンに対する敵意は変わらない。
「水の加護。庇護」
大気中の水分。
それがランスロットの全身を覆い、蒼色の膜を形成。
それはあらゆる攻撃から自らの身を守る水のベール。
そして、更に響く声。
「でも、わたしは。勇者の死を望む。そして、お前もだ」
意思の矛先。
それをガレアに固定する、ランスロット。
そして一歩、二歩、三歩と、ガレアへと近づき--
「勇者の加護。それがなければ、魔物たちは弱い。理解しろ」
吐き捨て、ランスロットはガレアへと手のひらをかざす。
そのランスロットの姿。
それに、ガレアは応えた。
「聞く耳は持たず。それがお主の答えか?」
「はい。それがわたしの答え」
呼応し、ランスロットの周囲に展開される水の剣。
その刃先は全て、アレンとガレアに固定されていた。
「操作。それを使って死ぬ? それとも、剣に穿たれて死ぬ? 選べ」
全く陰ることのない、ランスロットの敵意と殺意。
魔物はこれ全て人間の敵。
魔物に寝返った人間もまた全て敵。
ランスロットの心に刻まれたその二つの理念。
それはなにがあっても揺るがない。
幼き日。
ガレアより前の闇に全てを奪われ、感情を無くしたランスロット。
湖に身を投げ、死のうと思った時。
その時に、ランスロットは加護を得た。
だから、こそ。
「なにがあってもわたしは揺るがない。闇、魔物。そしてそれに加担する人間。全て、わたしの敵。さっさとその汚れた命を捨てろ。目障りだ」
染み渡る、ランスロットの思い。
それを聞き届け、ガレアはアレンに問う。
「アレンよ」
「はい」
「あの者に話は通じぬ。あの者を屍にする覚悟。それはできておるか?」
「……」
ガレアの問い。
それにアレンは小さく頷く。
その瞳。
そこに、揺らがぬ闇を宿しながら。




