湖騎士③
手間が省けた。
響いたそのランスロットの言葉。
それに、魔物たちは興奮。
殺気立ち。その目に敵意を宿し。
魔物たちの視線。
それが、ランスロット一人へと注がれる。
「舐めやがって!!」
「きゅっきゅっ」
「湖騎士かなにか知らないけど。勇者の加護を受けた魔物たちをみくびらないそうがいいわよ?」
「お前如き。10秒もあれば八つ裂きだ」
「ワオーン!!」
轟く、魔物たちの怒声と咆哮。
そしてそれを纏めるように--
「手間が省けた? まるで我らを討伐しようとしていた……みたいな口ぶり。実に不愉快だ」
「ふゆかい。不愉快」
フェアリーとリリスは不満げな声を響かせ、ランスロットを睨みつけた。
自らの眼差し。
そこに混じり気のない嫌悪を滲ませながら。
しかし、ランスロットは動じない。
「雑音。聞くに値せず」
淡々と呟き、兵士長の前へ歩み出るランスロット。
自分と兵士長を円状に囲む陣形。
それを取り、居並ぶ大量の魔物たち。
その敵意ある存在たちを見渡し--
「水の加護。束縛」
染み渡る、ランスロットの透き通った声。
刹那。
大気中の水分。
それがランスロットの言葉に応え、カタチを変える。
曰く、それは。
「く、鎖?」
「なッ、なんだこりゃ!! 身動きが取れねぇぞ!!」
「きゅっ!?」
蒼色の鎖。蒼光を放つ決して千切れぬ、水の鎖だった。
それに身体を縛られ、魔物たちは文字通り自由を奪われてしまう。
更に行使されようとする、ランスロットの加護。
その蒼の瞳に殺意を込め--
「水の加護。操作」
そう意思を表明し、魔物たちの内にある水分。
それを操り、即死させようとするランスロット。
だが、そこに。
「湖騎士」
そんな声が響く。
そして、ランスロットの眼前。
そこに、クリスが吹き抜ける風と共に移動し剣を振おうとした。
クリスの腰の鞘。
そこより抜かれる、剣。
「剣術の加護がひとつ」
同時に、クリスへとかかる加護。
だが、ランスロットは微動だにしない。
「剣聖。貴方には失望」
吐き捨て。
「水よ。剣となれ」
大気中の水分。
それを剣へと変え、その手に握るランスロット。
クリスの剣と、ランスロットの水の剣。
それがぶつかり、そして。
「寝返った貴方に用は無い。どんな理由があろうと、私は貴方を許さない」
目を見開き、ランスロットはクリスを見定める。
その蒼の瞳。
そこから目を逸らさず、クリスもまた声を響かせようとした。
しかし。
「声も聞きたくない」
空いた手のひら。
そこにもう一本の剣を創って握りしめ、瞳孔を開くランスロット。
「喋るな、裏切り者。喋る前に死ね」
躊躇いなく、ランスロットは剣を振り上げた。
ただその胸に宿るは、目の前の裏切り者に対する憎悪と殺意。
そのランスロットの感情。
それに呼応し、大気中の水分もまた鋭く太い氷柱のようなカタチへと姿を変えクリスへと照準を合わせる。
圧倒的なランスロットの力。
兵士長はそれに見惚れ、勝利を確信しようとした。
「流石、ランスロット様」
と、声をあげようとする兵士長。
振り下ろされる、ランスロットの剣。
だが、それをアレンの力が遮った。
「防御の加護がひとつ」
ガキンッ
クリスに付与される、アレンの加護。
剣が弾かれ、しかしランスロットは表情を変えない。
敵意の矛先。
それをアレンへと変える、ランスロット。
そのランスロットの視線。
蒼の光に彩られ、明確な敵意に包まれた眼差し。
アレンはだが、表情を変えない。
「アレン。勇者。己の義務を放棄した半端者」
声を響かせ、ランスロットは空いた手でパチンっと指を鳴らす。
瞬間。
大気中の水分。
それが巨大な三叉槍にカタチを変え、アレンに創造された要塞のひとつを撃ち抜く。
途方もない轟音。
大気が揺れ、墜落していく空中要塞。
その光景。
それを魔物たちは息を飲んで見つめることしかできない。
街へと迫る空中要塞。
さしもの兵士長も焦り、声を発する。
「ら、ランスロット様」
「……」
「ま、街が。我らの街が終わって」
「……」
その兵士長を仰ぎ見る、ランスロット。
それに兵士長は声を失う。
感情の灯らない表情。
そして眼差し。
更に響くは声。
「わたしだけが生きていれば問題ない。今は勇者
の死。それだけが大事」
「……っ」
汗を滲ませる、兵士長。
それを意に介さず、ランスロットは再びアレンへと視線を戻す。
そのランスロットの思惑。
それをアレンの声が砕く。
「風の加護が10000」
風を操る加護。
それが極限にまで強化され、発動された。




