vs盗賊団②
視力の加護の解除。
その言葉の意味。
それをギルダークは理解した。
滴る汗。
先程までの勢い。
それを無くし、ギルダークは姿の見えぬアレンの気配に怯える。
ふらふらと。
おぼつかない足取りで後退し、自らの目を抑えるギルダーク。
そのギルダークの様。
そこに、盗賊団長としての姿はない。
あるのは、平凡な人間にも劣る一人の存在の絶望に彩られた姿だった。
ギルダークの戦意喪失。
それに、応え解除されていくギルダークの加護。
軽装装備の加護。
それが解かれ、ふんどし或いはサラシ姿になっていくギルダークを含む盗賊団員たちの面々。
その光景。
それをアレンは、無機質に見つめる。
そして。
「奪の加護がふたつ」
ギルダークの二つの加護。
透明化と、先読みの加護。
それを自らのモノにするアレン。
「……っ」
その場に両膝をつき、ギルダークはうなだれる。
「くそっ。くそっ。くそっ。あと少しでッ、あと少しで!! 俺の時代がきたってのに!! 一生遊んで暮らせると思ったってのによ!!」
響く、ギルダークの虚しい叫び。
「勇者。アレン。アレン。くそっ」
「創造の加護」
聖紐
アレンの手。
そこに創造される、人数分の伝説の紐。
その紐に対し、アレンはギルダークたちの拘束を命じた。
「拘束」
アレンの命。
それに従い、盗賊団たちを自動的に拘束していく聖紐。
その紐はなにがあっても千切れない。
拘束され--
盗賊団たちは完全に無力化。
それを見届け、アレンは湖へと視線を向けた。
瞬間。
湖面。
それが泡立つ。
そして、大量の水飛沫。
それと共に、湖主がその姿を現す。
見た目は巨大な魚。
日の光に照らされた鱗。
それは虹色に輝き、そのくりっとした両目はアレンをしかと捉えていた。
そのリヴァイアサンの周囲。
そこに現れる、数人の人魚たち。
皆、恐る恐る顔だけを水面から出しリヴァイアサンと同じようにアレンを見つめている。
「敵だ。勇者だ」
「が、魔王様だと思ったのに」
「うん。肌に感じたあの闇の気配。あんな闇を感じさせるなんて人間じゃできないよ」
感じた闇の気配。
それが勇者であることの驚きと戸惑い。
それを口々に呟き、人魚たちはアレンを凝視。
そんな人魚たちに、アレンは応えた。
湖のすぐそば。
そこに近づいて片膝をつき、「透明化の加護」と呟きそっと片手を湖に差し入れながら。
瞬間。
湖は文字通り綺麗に透明化。
湖底。そこまで日の光に照らされ、湖が生まれた時のなにひとつ汚れのない湖へと戻る。
そのアレンの加護の使い方。
それにギルダークは、息を飲む。
透明化の加護。
それを汚れた湖に使う。
そんなこと。自分では思いもつかない。
私利私欲の為に加護を使う。
それが、悪名高き人間なのだから。
「もしかして今のアレンってわたしたちの味方なのかな?」
「う、うん。だと思う」
「そうでないと。この湖を綺麗になんてしないよね」
アレンの行動。
それに、リヴァイアサンと人魚たちはアレンがあの時の敵ではないことを理解。
そして。
この湖が人の支配から解放され、自由になったこともまた同時に理解したのであった。




