vs盗賊団①
しかし、盗賊団たちは気づかない。
アレンの砂を放り投げるという動作。
それを鼻で笑い、アレンを小馬鹿にした。
「あれ、なにしてるの?」
「ぷっ。砂遊びなんていい大人がするものじゃないでしょ」
「闇に穢され続けて頭がおかしくなっちゃったんじゃない?」
「まっ。あれが魔物側に寝返った奴の末路だろ。自業自得だよ自業自得」
それぞれの胸中。
そこでそれこそ、アレンの力をみくびり自分たちより下だと決めつけて。
だが、その余裕。
それは一瞬のうちに崩れ去る。
速度の加護。
それがかかった、砂粒。
それが光に負けず劣らずの速さで、盗賊団たちを襲う。
「えっ?」
声を漏らす間もなく--
盗賊団たちは砂粒に蹂躙される。
「なッ、なんだこりゃ!? す、砂粒一粒一粒が」
「砲弾みてぇな威力に--ッ」
「「ぐぎゃあぁぁ」」
砲弾が着弾したような轟音。
それと同時に、盗賊団たちの悲鳴が周囲に反響。
解かれる、透明化の加護。
露わになる、盗賊団の姿。
そして、その盗賊団の先頭。
そこには、盗賊団長が佇んでいた。
掠れた赤髪に、自信たっぷりな表情。
引き締まった身体。
軽装に身を包んだその姿は、まさしく盗賊そのもの。
ただ一人。
「砂遊びに付き合ってる暇なんてねぇ。いかに勇者であろうと、俺の目に見えねぇものはねぇからな」
全ての砂粒。
それを視認し、軽々と避けたギルダーク。
そのギルダークの姿。
そして、青々と輝く双眸。
それに、アレンは悟る。
「先読みの加護」
アレンの口。
そこから呟かれた単語。
響いたアレンの声。
それをギルダークは笑う。
「いかにも。よくわかったな、勇者」
ぱちぱちと拍手をし、言葉を続けるギルダーク。
「この加護を扱える存在になるには苦労したぜ。だが、しかし。悪名も積もれば山となる。いつしか人々は俺を恐れ、同時に畏敬の念を抱くようになった。そしたら、ほれこの通り。勇者と同じように俺も加護持ちになったってわけだ」
「……」
ギルダークの言葉。
それにアレンは一欠片も表情を変えない。
しかし、ギルダークはそれを勘違いしてしまう。
「なんだ、勇者様。もしかしてこの俺にビビっちまったのか? まっ、仕方ねぇ。自分よりヤバい奴に出くわせば、誰だってそうなるぜ」
勝ち誇り。
「どうだ、アレン。この俺と組まねぇか? 俺と組めば楽しいことがたくさん待ってるぜ」
提案し、アレンに手のひらを差し出すギルダーク。
そして同時に。
「にしても……この雑魚共はほんと使えねぇな。せっかく俺様の透明化の加護と軽装装備の加護を与えてやったてのに、情けねぇ」
自分の周囲。
そこに倒れ痙攣を繰り返す、仲間たち。
その砂粒の餌食になった盗賊団員たち。
それを見下ろし--
「もういらねぇな、この雑魚共は」
吐き捨て、顔を踏みつけようとするギルダーク。
だが、そこに。
「勇者の加護がひとつ。あんたにかかっていた視力の加護を解除」
響く、短いアレンの声。
それにギルダークは視線をアレンに固定。
「なんだ? 俺の先読みの加護に挑戦しようってのか?」
刹那。
ギルダークの視界。
それがぼやける。
しかし、ギルダークは動じない。
「なんだ? 急に目が霞んできたぞ」
目を擦り--
再び、アレンを見つめるギルダーク。
しかし、視界のぼやけは更に悪化していた。
「な、なんだこりゃ? お、俺の目が--」
「おかしくなっちまったのか?」
ギルダークの言葉の続き。
それを心眼の加護をもって響かせ、速度の加護をもってギルダークの眼前に移動したアレン。
吹き抜ける風と、アレンの気配。
それにギルダークは、焦る。
しかし、なにも見えない。
「あッ、アレン!! そこにいるのか!? てッ、てめぇ!! この俺になにをしやがった!!」
「見えないのなら」
「……っ」
「先読みもなにもないよな」
冷徹なアレンの声。
それを聞き、ギルダークの表情がみるみる青ざめていく。




