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真の賢者⑤

 奪の加護。

 それは対象の扱える加護を奪うというもの。

 しかし、それを発動するには条件がある。


「奪の、加護」


 アレンにより発動された加護。

 その名を呟き、マーリンは全身から力を無くす。

 聞いたことはある。

 対象の心が現実に敗北した時、相手の力を奪う加護。


 扱える存在。

 それはこの世界でも数えるぐらいしか居らず、そのうちの一人はマーリンも知っている。


 だが、まさか。

 アレンもその加護を使えるとは思わなかった。


 そこ知れぬアレンの力。

 それに、虚ろな瞳を晒すマーリン。


 勇者アレンの力。

 それを理解したつもりでいた。

 三年間。己の工房で偽物マーリンと共に書物を漁り、全てを知ったつもりでいた。


 だが、今目の前に突きつけられた現実。

 それに、マーリンは自分の立ち位置を知る。


「わたしなんてまだまだちっぽけな存在。は、ははは。なんだったんだろ? これまでのわたしが積み上げてきたものって」


 響く、マーリンの声。

 それに、アレンは応えない。


 ただ静かに踵を返し、マーリンから奪った加護を自身へと付与。


「賢者の加護がひとつ」


 白光に包まれる、アレンの身。


 そして。

 魔力の上限。

 それがなくとも、アレンはあらゆる魔法が使えるようになる。


 そのアレンの背。

 それを見つめ、マーリンは声を投げかけた。


「あ、アレン」


「……」


 視線だけをマーリンに向ける、アレン。


「貴方は本当に--」


「人間の世界を終わらせるの?」


 心眼の加護。

 それを自身に付与し、アレンはマーリンの言葉の続きを発した。


 こちらを見つめる、アレンの目。

 そこに宿る曇りなき闇。


 それを見据え、マーリンは悟る。

 アレンが声を発さずとも、答えはわかる。

 いや、わかってしまう。


 小刻みに身を震わせ、その場でアレンを見ることしかできないマーリン。

 そんなマーリンから視線を逸らし、アレンは淡々と歩みを進めていく。


 湖に向け、前へ前へと。


 そのアレンの背。

 それを見据え、マーリンは声すらも発することを躊躇う。


 人の世界は終わる。

 間違いなく、アレンの手により。

 賢者マーリンの力をもってしても、勇者アレンは止められない。


 闇をたぎらせる、アレンの姿。

 それをマーリン以外の面々も見つめることしかできない。


 変化の加護。

 それがあれば、あらゆるモノの姿を変えることができる。

 魔物の姿を人に変え、これから先に展開した人の目を欺くこともできる。

 加えて、マーリンが石ころを人型にし意思を持たせたようなことも変化の加護ならできてしまう。


 後から続く、魔王ガレアの軍勢。

 その障壁を、アレンは全て取り除く。


 アレンの踏み締めた地。

 そこに滲む闇。

 それはアレンの意思に一切の揺らぎがないことを示していた。


 〜〜〜


 広がる湖。

 それはアレンの到来を予期していたかのように、湖面を揺らがせる。


 心眼の加護。

 それを自身に付与し、身を隠すモノたちの位置を探るアレン。


勇者アレンがきた」


「ふふふ。たった一人で来るなんてお馬鹿さんね」


「アレンからはわたしたちの姿は見えない」


「なんていっても盗賊長ギルダーク様の加護。透明化が付与されているんだもの」


「金さえもらえれば、俺たちはなんでもやる。たとえそれが勇者を殺せっていう命令でもな。な、ギルダーク様」


「あぁ。勇者をここでやれば一生遊んで暮らせる金が手にはいる。おまけに俺たちの地位を保証するともやつは言った。そうなりゃ盗賊としてコソコソする必要もなくなるってことだ」


 姿を消した盗賊団たちの心の声。

 それを聞き、アレンは足元の砂を拾う。


 そして。


「速度の加護が10000」


 そう呟き、砂利を声のした方向へと放り投げる。

 砂粒ひとつひとつ。

 それの速度が10000倍になり、透明化した盗賊団たちへと飛んでいく。

 その一粒一粒。

 それは、岩をも砕く威力になっていた。

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