真の賢者③
アレンにより展開された神盾。
それにマーリンの放った巨大な炎剣は弾き返され、くるくると縦に回転しながらマーリンの元へと飛来、
風を切る音。
それが響き、しかしマーリンは動じない。
しかとその炎剣を見据え--
「やはり、勇者。一筋縄ではいかないようです」
淡々と声を響かせる、マーリン。
そして。
パチンっ
と、マーリンは再び指を鳴らす。
それに呼応し、マーリンの創出した炎剣は跡形もなく消滅。
残るは、少し表情を引き締め佇むマーリンただ一人。
そんなマーリンに、アレンは手のひらをかざす。
その瞳に闇をたぎらせ、マーリンに対し明らかな敵意を露わにしながら。
「なんですか、その目は?」
一歩も引かず、マーリンもまたアレンを見据える。
「その目。その闇。イライラします、全く。どうやら身も心も完全に闇に染まったのですね……でも、まっ。これで心置きなく貴方を亡き者にできます」
見た目に似合わぬ、口調。
そして殺気を帯びた眼光。
自らの纏ったローブ。
それを揺らし、マーリンは三度魔法を発動。
「神盾。それは真正面からの攻撃に対し、絶対。だけど、これなら」
追尾雷
龍のカタチをした無数の稲妻。
それがマーリンに応え現出する。
そして短く咆哮し、アレンの全方位を囲むように展開。
後は、マーリンの命ひとつ。
それさえあれば、稲妻たちはアレンへと殺到する。
加えて、防御壁をも自身に張ったマーリン。
マーリンは笑う。
「さて。次はどうします? そのちっぽけな聖剣もどきでは……雷竜どころか、このわたしの防御壁にさえ傷ひとつつけられませんよ?」
余裕を醸す、マーリン。
その姿を見つめ。だが、アレンに動揺はない。
「……」
無言で淡々と。
アレンは力を行使。
展開された10000本のエクスカリバー。
その刃先をマーリンに固定し、アレンは呟いた。
「巨大化の加護が10000」
己の胸中。
そこで冷静に。
そして、その加護が意味すること。
それは即ち、自身の創造したエクスカリバー全てに対し巨大化の加護を付与するということ。
更に。
「対魔の加護が10000」
巨大化した10000本のエクスカリバー。
その全てに、アレンは魔法特攻の加護さえも付与してしまう。
巨大化の加護と対魔の加護。
それにより、一本一本がマーリンの放った炎剣と同じくらいの大きさになり魔法を砕く聖剣となる。
それを後ろに展開したアレンの姿。
それはまさしく、圧巻そのもの。
本能的に。
マーリンは一歩、後ろにさがる。
いや、一歩では済まない。
二歩、三歩と後退り--
「……っ」
生まれて初めて、マーリンは感じてしまう。
勇者に対し。一人の人間に対し。
心の底からの畏怖。
それを鮮明に。




