反転攻勢②
「なッ、なんだこのデカブツは!?」
巨大なダークウルフ。
その顔に恐れ慄く、ゴウメイ。
そしてそれは、マリアもまた同じだった。
「だ、ダークウルフ? ど、どうしてこんな街中に? ゆ、勇者さまの結界。それがあれば魔物は街中に入れないはずなのに」
そこで、マリアは気づく。
「も、もしかして勇者様の身になにか?」
「なにかもクソもなにかあったんだろ!! 魔物にやられて野垂れ死んだのか!? あのお人好し勇者ッ、鍛冶屋に行ったっきり帰ってこねぇと思ったらそういうことかよ!!」
叫び。
「おいッ、マリア!! ここは任せたぞ」
「えっ、えっ?」
「えっ。じゃねぇよ。俺に戦う力なんてねぇ!! また俺に抱いてほしけりゃここであのデカブツを倒せ!!」
椅子から立ち上がり、急ぎ装備をつけるゴウメイ。
そんなゴウメイに、マリアはすがる。
「まっ、待ってください!! わたくしに戦う力なんてありません!!」
「戦う力はないだと!?」
「え、えぇ。わたしは治癒が専門ッ、傷を治すことはできても……一人ではスライム一匹も倒せないのです!!」
そんな二人の声。
それに興奮し、ダークウルフは更に大きく口を開ける。
そして。
ゴゴゴ……
大気を吸い込み、火球を吐こうとするダークウルフ。
熱気と閃光。
それに包まれる、室内。
その中で、ゴウメイは逃走を図る。
「……っ」
ポケットに忍ばせた、転移の翼。
それを掲げ--
「お、俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇッ、なんつっても世界の宿屋の長だからな!!」
誰も聞いてもいないこと。
それを叫び、ゴウメイは一人転移を発動しようとする。
だが、それを遮るマリアの行動。
「てッ、転移するならわたくしもご一緒に!!」
眩い光。
それに包まれる、ゴウメイ。
マリアはその身体に抱きつく。
死に物狂いで。
自分の命。
それを長らえる為に。
そして転移していく、二人。
それをダークウルフは敢えて、見逃す。
まるで誰かに指示されたかのように--
「ガルルル」
と口を閉じ、低い唸り声をあげて。
そしてそのダークウルフの足元。
そこには、立っていた。
「……」
無言で宿屋を見上げ、ダークウルフを優しく撫でる勇者が。
その身から漂うは漆黒。
その目に灯るは、光ではなく闇。
そんなアレンの耳元。
そこに突如として響く声。
「アレン様。ご報告です」
それは、ガレアの命によりアレンに仕えるフェアリーの声だった。
「既にガレア様率いる魔物たちはこの村を包囲。聖なる結界が無き今。10分もあれば完全制圧が可能であります」
「そうか」
「はい。いかようにいたしましょうか?」
「俺は聖女、剣士、魔法使いの身柄をまとめて抑える。フェアリーたちも俺についてきてくれ」
「かしこまりました」
頷き、アレンの命に従うフェアリーと魔物たち。
勇者の力。
それにより、魔物たちは全て強化。
加えてアレンにより張られていた各所の結界は全て解除。
勇者に頼り切った町々は既に、無防備になってしまっている。