真の賢者②
「し、真の賢者」
「は、初めて見たぞ」
「変化の加護。その加護で水晶玉に姿を変えていたのか?」
真の賢者。
そしてアレンの口から響いた変化の加護という言葉。
それに、周囲の面々は口々に声を漏らす。
そんな周囲の反応。
それを気にも止めず、マーリンはアレンを指し示す。
小さな人差し指。
それをすっとアレンに固定し--
「ここで会ったが三年目。貴方を倒して私が勇者になってみせます。見たところ……ふむ。どうやら、貴方は人間側ではないみたいですから」
幼くも決意のこもった、マーリンの声。
「なぜ貴方が魔物側に寝返ったのか。どうして魔王と手を組んだのか。気になることは多々あります。ですが、今は。わたしは貴方の敵なのです」
パチンっ
と響く、マーリンの乾いた指の音。
それに呼応し、マーリンの姿が光に包まれていく。
そして、数秒後。
「ソフィ」
アレンの口。
そこから呟かれる、幼馴染の名。
その声に、マーリンは応えた。
「貴方の心。その中に見えたのは、この少女。どうです? 中々の出来栄えでしょう?」
心眼の加護。
それを自身にかけ、アレンの心を見透かすマーリン。
くるりと一回転をし、マーリンはアレンへと問いかける。
ソフィの姿のまま。ちいさく笑いながら。
肩のあたりまで伸びた黒のショートカットに、黒の瞳。整った鼻梁。どこか物憂げな表情に、寂しそうな眼差し。
それは、最後にアレンが見たソフィの姿をそのもの。
それに、アレンはふらつく。
ソフィ。
〜〜〜
"「もし。もしもだよ? その。アレンくんが勇者に選ばれなかったら……その。ずっと、わたしの。ううん。この村にみんなと一緒に居て欲しかったんだ」"
旅立ちの前夜。
村をあげてのアレンの旅立ちを祝う祝賀会。
その最中。
アレンの側に座り、ソフィはそう言っていた。
"「わがままだってわかってる。でもね。わたしは、アレンくんが手の届かないところに行っちゃうのが」"
"「寂しいんだ」"
焚き火の灯り。
それに照らされたソフィの横顔。
そこに一筋の涙が流れるのを、アレンははっきりと見てしまった。
その時。
アレンは、ソフィの肩を優しく抱き寄せ--
"「俺は必ず帰ってくる。そして、この村のみんなを。ソフィを幸せにする」"
そう言い切り、その瞳に決意を込めたのであった。
〜〜〜
しかし、現実は。
「故郷は壊滅。村の皆は全員、凄惨な拷問の末に磔。勇者の心。そこに傷をつけ自死へと追い込む為の捨て駒。それとして使われた」
アレンの心。
そこに浮かぶ文字の羅列。
それを声に出し、マーリンはしかし表情を変えない。
ソフィの姿のまま--
「成程、なるほど。アレンがあちら側に寝返った理由。それは理解できました」
刻々と頷き、マーリンはアレンへと手のひらをかざす。
「ですが、ここでわたしは貴方に情はかけません。魔物たちに、そして魔王に。この世界を渡すわけには参りませんので」
立ち尽くす、アレン。
それに向け、マーリンは魔法を放とうとする。
もはやアレンは抵抗などしない。
そんな心持ちで。
「炎剣」
マーリンの背後。
そこに現れた、巨大な炎剣。
それはアレンに刃先を向けて照準を合わせ、マーリンの命を待つ。
本来なら莫大な魔力を消費するソレはしかし、賢者の加護をもってすれば発動可能。
そして、マーリンは容赦なく下す。
「勇者を撃ち抜け」
躊躇いなく。
アレンの命を無きモノにする為に。
アレンに迫る、炎剣。
それをアレンは見つめ--
「創造の加護がひとつ」
アレンは胸中で呟く。
創造される、一枚の盾。
それは神盾。
黄金に輝くソレは、まさしく伝説の盾そのもの。
そして更に。
「巨大化の加護」
アレンは盾へと加護を付与。
刹那。
神盾は、炎剣に匹敵するほどの巨大な盾へと変貌したのであった。