真の賢者①
魔力の加護が10000。
その言葉に、地面に転がった水晶玉は叫ぶ。
「い、一万!? あり得ないッ、そんな数字!!」
だが、目の前の現実。
それは紛れもない事実。
一万倍になった、アレンの火球。
それは空一面をどころか銀河系ひとつに匹敵するほどの大きさ。
勇者のもたらす魔力の加護。
その凄まじさ。
それに、マーリンは己の浅はかさを知る。
魔力がなくても魔法が使える。
そんな自分の加護等、足元にも及ばない勇者の加護。
魔物を押し返し、勇者に代わって勇者になる。
そんなこと、できようもない。
「ま、マリーン様。お気を確かに」
懸命にマーリンを励ます、水晶玉の声。
しかしそれに応えることすらできない、マーリン。
「こここ。これが勇者の力。じ、次元がちちち。違いすぎる」
響くマーリンの声。
そこに纏わるのは、諦めの意。
加護。
それを一万も重ねがけするなど、人知の及ぶことではない。
しかし、アレンは更に力を行使。
圧倒的な力の差。
それを見せつける為に。
「創造の加護がひとつ」
「そ、創造の加護」
創造の加護。
その言葉に、マーリンは息を飲む。
名前だけでも明らかにすごそうな加護。
アレンの周囲の空間。
そこが歪み、一本の剣が現れる。
果たしてその剣は、聖剣。
かつてアレンが女剣士に与えた至高の一本だった。
それを手に取り、更にアレンは呟く。
「複製の加護が10000」
刹那。
アレンの周囲。
そこに展開される、10000本のエクスカリバー。
それは全て、マーリンに矛先を向けいつでも射出可能な状態を保っていた。
「こ、ここまでだとは。こここ、これが勇者の力。ま、マーリン様。ここは潔く白旗を振ったほうがよろしいかと」
「強い。つよい。つよすぎる。アレン。勇者。ば、化け物。は、ははは」
壊れ、譫言を繰り返すマーリン。
そこに、声が飛ぶ。
「マーリン様!!」
水晶玉の叫び。
それにマーリンは、正気に戻る。
そして、声を張り上げた。
「こ、降参だ!! アレンッ、君にぼくは勝てない!! アレンに代わって勇者になるだなんて思った愚かなぼくを許してくれぇ!!」
「わッ、わたしからもお願いします!! この身の程知らずの賢者様にどうかご慈悲を!!」
その響く一人と一個の声。
それに、アレンは応えた。
「魔力の加護がひとつ」
アレンの呟き。
それに応えみるみるうちに縮小していく、火球。
そして、銀河系のように大きかった火球はアレンの手のひらの大きさに戻る。
「ご、ご慈悲を」
ありがとうございます。
そんなマーリンの声が響こうとした、瞬間。
「いつまでその姿を晒すつもりだ、水晶玉」
遮る、アレンの声。
そしてそれに応え、マーリンは焦る
「な、なんのことでしょう?」
「変化の加護。だったか?」
「だ、だからなんの」
「本体はそっちか。うまいこと化けたものだな、賢者」
吐き捨て、ローブ姿の偽物に向け火球を撃ち放つアレン。
瞬間。
「流石、勇者。こうも簡単に見破るとは……驚いたよ」
そんな楽しそうな声と共に、偽物のマーリンは炎に包まれ消滅。
変化の加護。それが解かれたひとつの石ころ。
それがその場に転がる。
代わって水晶玉が眩い光に包まれ--
「真の賢者。ここに現れり」
そんな声と共に。
とんがり帽子を深く被り、眼光を鋭くする一人のローブ姿の少女がアレンの視線の先に現れた。