賢者の加護⑥
しかし、アレンは動じない。
マーリンの姿。
それをその瞳に捉え、一言。
「速度の加護が三つ」
呟き。
瞬きの間にマーリンの後方へと、移動するアレン。
そして。
「魔力の加護がひとつ」
胸中で呟き、アレンは自身の魔力を底上げ。
その流れで、マーリンの背に向け手のひらをかざす。
しかし、マーリンは動じない。
背後を仰ぎ見、アレンに向け一言。
「へぇ。すごいね、アレンくん。これが勇者の力なの?」
子どものような笑顔。
「でもね。魔法でこのぼくに勝てるなんて思わないほうがいいよ? こっちは専門だからね」
そのマーリンの言葉。
それに、土下座姿勢の面々はそそくさとその場から退散。
周囲の草むらに身を隠し、事の成り行きを息を飲んで見守ろうとする。
自信満々なマーリンの言葉。
それを聞き流し、アレンは魔法を使う。
火球。
アレンの手のひらの上。そこに現れる、小粒の火球。
それは最も基本的な火の魔法。
その大きさ。
それは、駆け出しの魔法使いと同じくらいの大きさだった。
それを、マーリンは鼻で笑う。
振り返り--
「面白い、面白いよ。それが勇者の力なのかい? ははは!!」
マーリンもまた、空いた手のひらの上に火球をつくる。
その大きさ。
それは、アレンの数倍。
そして更に響く、マーリンの勝ち誇った声。
「言っておくけどこれでもまだ本気じゃないからね? 本気を出せば……これより更に大きな火球を」
つくれるよ?
刹那。
「魔力の加護がふたつ」
アレンの魔力。
それが倍になり、火球の大きさも倍になる。
「へぇ、やるね。でもまだまだ」
「魔力の加護が三つ」
3倍になる、アレンの火球。
そこでマーリンも少し本気になってしまう。
「な、中々やるね。ならぼくも」
更に大きくなる、マーリンの火球。
それはアレンの火球より倍以上の大きさ。
「ど、どうだい? これでもまだ本気じゃないよ? 白旗を振るなら今のうちだよ?」
先程までの余裕。
それが若干薄れている、マーリン。
そこに、更に響くアレンの声。
「魔力の加護が五つ」
「へ?」
五倍になる、アレンの火球。
「魔力の加護が10」
10倍になる、アレンの火球。
その大きさ。
それは、ひとつの山に匹敵する。
だが、アレンは止まらない。
「魔力の加護が100」
「……っ」
息を飲み、後ずさるマーリン。
アレンの火球。
それはもはや、火球の次元ではない。
言うなれば、ひとつの太陽がそこに現れたようなもの。
「魔力の加護が1000」
空一面を覆う、アレンの火球。
それに、マーリンの顔から生気が失せる。
尻餅をつき、震えるマーリン。
それを見つめ--
「魔力の加護が10000」
トドメとばかりにアレンは声を響かせた。