賢者の加護⑤
その光景。
それを見届けた武闘家たちは更に平伏。
もはや、抵抗どころの話ではない。
「あっ、その。勇者様。この先には待ち伏せ部隊が潜んでいます」
「この先にある湖。そこは我ら人間の大切な水源のひとつ。それを守る為に死に物狂いの抵抗を奴等は展開します」
「真正面からやりあえば勝ち目はない。そう踏んだ奴等は奇襲を仕掛けようと」
「そ、その通り。で、その。わたしたちは先遣隊として少しでも魔物の勢いを削ぐ為に……はい」
地に額をこすり、秘匿のはずの機密情報。
それをアレンへと話す武闘家たち。
その姿。
それは、我が身可愛さに平気で人間を売る武闘家の風上にも置けない人間そのもの。
途端。
武闘家たちの身。
そこにかかっていた、拳聖の加護が解かれていく。
まるで平気で人間を裏切った武闘家たちを見放すようにして。
しかし、武闘家たちは悔しくもなんともない。
「ほ、ほら。勇者様。わたしたちはこの通り拳聖から見限られました」
「こ、これからは勇者様と魔王様の為に」
「こ、この身を捧げます」
「だから。その。お命だけは助けてください」
響く、慈悲を求める元武闘家たちの声。
それにアレンは敵意を解き、問い投げかけた。
「どうして拳聖は武闘家たちに加護を与えた?」
そう声を発し、土下座姿の武闘家たちを見つめるアレン。
そのアレンに、アレンに一番近い女武闘家は応えた。
「拳聖様は、その。ご自身が気に入った相手が居ればすぐに加護を与えるお方。で、ですので。拳聖様の加護を受けた武闘家はこの世界にたくさん居るのです」
「……」
静かに、声を聞くアレン。
「か、加護を与える存在。その存在が加護を付与する相手をどのように選ぶのか……それは、未だ不明な点が」
多い。
その声が響く前に、アレンは聞いた。
ぱちぱち。
と、こだまする拍手。
そして同時に染み渡る声を。
「幸運。三年ぶりに会った人間がまさか、勇者だったとはね。流石、ぼくって感じかな?」
余裕を隠しきれぬ声音と雰囲気。
果たして、そのアレンの視線の先に現れたのは--
「お初かな? いや、お初以外の出会いはないか。なにせ三年も人目を避けていたからね」
「すごいです、マーリン様。まさかのお初の相手……それがあの消息不明の勇者様とは。流石、マーリン様。もっています」
喋る水晶玉を片手に微笑む、一人の男。
纏った黒のローブ。
それを風に揺らし、自信に満ちた表情を浮かべる賢者。
その、この世界でただ一人魔法が使える存在。
それがアレンの視線を受け、どこか楽しそうにそこに佇んでいた。