賢者の加護④
そんな武闘家たちに、アレンは言い放つ。
防御の加護。
それをたぎらせ、武闘家たちを見据えて。
「今の俺は岩より硬い。岩をも砕く拳程度じゃ話にもならなぇぞ」
「……っ」
息を飲む、ゴーン。
そして更に、アレンは声を響かせた。
武闘家たちの心。
それを完全にへし折るようにして。
「勇者の加護。それに制限はない。施そうと思えば、何回でもかけることができる」
淡々と言葉をこぼす、アレン。
それと呼応し、アレンは防御の加護を更に自身に付与。
「勇者の加護が5つ」
更に5倍になる、アレンの防御力。
それはさながら、ダイヤモンドよりも硬い。
銀色に輝く、アレンの身体。
その光に、武闘家たちはその場にひれ伏す。
かちかちと歯を鳴らし--
「ゆ、勇者様。わわわ。わたしたちは拳聖様の命令で仕方なく」
「そ、そうです。言うなればわたしたちも被害者。た、ただの操り人形に過ぎません」
「ででで、ですので。どうかご慈悲を」
抵抗を諦め、白旗を振る面々。
だが、しかし。
そのアレンを信じぬ者が一人。
一人だけ立ったままで、その者は言い放つ。
「うッ、嘘をつくな!! 防御の加護ぉ? んなもんッ、拳聖様の加護に及ぶわけねぇ!!」
叫び、平伏した仲間たちの前に踊る出る男。
そして、その拳をアレンに向け男は声を響かせようとした。
「言っておくぜッ、俺の拳はどんなモノものでも砕く!! 拳聖様の右腕だからなッ、俺は!! 怖気づくなら--」
今のうちだぜ。
刹那。
「速度の加護を付与」
「へ?」
速度の加護。
それをかけ、一瞬にして男の眼前に現れたアレン。
後から吹き抜ける風。
それに髪を揺らし、男は青ざめる。
だが、アレンは止まらない。
「拳聖の右腕か。なら、手加減はなしだ」
「ひいっ」
「勇者の加護がひとつ。貫通の加護」
アレンの拳。
そこにかかる、相手の耐性を全て貫通する加護。
そして振り上げられる、拳。
「勇者の加護がひとつ。筋力の加護」
更に強化される、アレンの拳。
それを見つめ、男は涙目。
「ま、待て。さっきのはただの冗談ッ、俺はただの下っ端なんだ!! だから、な? 威勢を張ったことは謝る!! だからッ、だから!!」
だが、アレンは止まらなかった。
かつてのアレンなら止まったかも知れない。
だが、今は。
「俺は人間側じゃない」
吐き捨て、アレンは叩き込む。
男の顔面。
そこに、己の拳を。
容赦も躊躇いもなく。
べきッ
瞬間。
「ひぃぃぃぃ!!」
という悲鳴共に、男は空の彼方に飛ばされる。
その様。
それはまるで、突風に吹かれなす術もなく吹き飛ばされる枯葉そのもの。