賢者の加護③
独り、道を進むアレン。
そのアレンの視線。
その先に現れる、数人の人だかり。
そして、響く声。
「ゆ、勇者」
「ど、どうやら噂は本当だったようね。勇者が魔物側に寝返ったって言うのは」
「だッ、だが!! ここで俺たちはひくわけにはいかねぇ!!」
「そ、そうよ!! こここ。ここで貴方を倒して名をあげるのがわたしたちの目的!! そ、その首貰い受けるわ!!」
ふんどし姿の男たちと、さらし姿の女たち。
皆引き締まった身体をし、見るからに相当な鍛錬を積んだ冒険家。
武闘家。
一目で、アレンは悟る。
装備をせずとも、その身ひとつあれば充分な冒険家。
それが武闘家という職の特徴。
足を止め、アレンはその人間たちを見る。
無言で。
その瞳に、一切の光も灯すことなく。
それに、武闘家の面々はたじろぐ。
いかに装備がなくとも戦えるとはいえ、相手はあの勇者。
こちらのほうが数は圧倒的に多い。
しかし、優勢なのは明らかに勇者。
数々の偉業。
それを成し遂げた、アレン。
それを知る武闘家たちは、戦う前から怖気付いていた。
「ほ、ほら。お前から先にいけよ」
「な、なによ? あなたから行きなさいよ」
「し、仕方ねぇ。最初の一撃は譲ってやるよ」
「け、拳聖様の加護。それが俺たちにはある。だ、だから一発ぐれぇは当たるだろ」
響く、虚勢。
そんな武闘家たちの雰囲気。
それを砕くように、アレンは声を発した。
「全員、まとめて相手をする」
一歩、前に踏み出すアレン。
そのアレンに、益々怖気づく武闘家たち。
だが、その中の一人。
「やッ、やってやる!! 武闘家たちを舐めるなよ!!」
一番筋骨隆々とした男。
その巨漢が声を張り上げ、アレンに向け疾走。
そして。
アレンの眼前
そこで、丸太のように太い腕を振りかざし--
「受けてみろッ、岩をも砕く俺の拳を!! 拳聖様の加護ッ、それを舐めるなよ!!」
叫び、拳を振り下ろすゴーン。
迫る、拳。
それを見据え、アレンはしかし動じない。
そしてその胸中。
「勇者の加護がひとつ。防御の加護」
そこで、そう呟き--
岩をも砕く、ゴーンの拳。
それを避けもせず、アレンは真正面で受ける。
刹那。
べきっ
という音と共に、ゴーンの痛々しい絶叫が周囲に響き渡った。
「おッ、俺の!! 俺の拳がァァァ!!」
文字通り骨が粉々になった己の拳。
それを垂れ下げ、ゴーンは涙目を晒す。
そしてその場に両膝をつき、アレンを見上げるゴーン。
そのゴーンの眼差し。
それを受け、アレンは更に呟く。
「勇者の加護がふたつ」
更に硬くなる、アレン。
それに息を飲み、ゴーン以外の武闘家たちは汗を滲ませ後退りを開始。




