賢者の加護②
そんなアレンの声。
それに魔物たちの気分は高揚。
「そッ、そうだ!! こちらには勇者様と剣聖様ッ、そして魔王様が居るんだ!!」
「恐れることなどッ、なにもない!!」
「くそっ、どうしてそのことを忘れていたんだ」
揚々とする、魔物たち。
その魔物たちにかかる、リリスの声。
「わたしもいるよ」
「きゅっきゅっ」
小さなスライム。
それを抱え、無邪気な声をあげるリリス。
「人間たちはみんな馬鹿。だから心配しなくても大丈夫。それでね。わたし、湖で泳ぎたいの。ここ数日、お風呂に入ってなくて気持ち悪いの。すっぽんぽん。すっぽんぽんで泳ぎたいな」
賢さ0の意見。
しかし、その闇に堕ちたリリスも戦力としては充分。
そんなリリスに同意の意を示していく、女の魔物たち。
「わたしも久しぶりに」
ウンディーネ。
「さっぱりしたいです」
「ここ最近。進軍に次ぐ進軍。身体の疲れをとる為に湖へと進軍しましょう」
サキュバス姉妹。
その湖への進軍を推す、リリスと魔物たちの声。
それに、ゴブリン参謀はフェアリーと共に片膝をつきガレアへと進言した。
「ガレア様。ここは魔物たちの士気。それを上げる為に湖への進軍を。加えて、あそこは人間たちとって重要な水源のひとつ。我らがそこを抑えれば人間たちに与える生活面での打撃。それは多大なものになるかと」
「ガレア様。いかように?」
響く、ゴブリン参謀とフェアリーの声。
それを聞き、ガレアは瞼を閉じ腕を組む。
確かに。
湖を抑えれば人間たちに与える生活面での影響は多大なものとなる。
しかし。
「人間もソレはわかっているはず。なにか手を打っているやもしれぬ」
そう呟き、アレンを一瞥するガレア。
そんなガレアの憂いの眼差し。
それに、アレンは応えた。
「俺が先陣を切ります。いや、切らせてください」
響くアレンの声。
そこに恐れや迷いは一切無い。
瞼を閉じ、アレンは続けた。
「それが自分の役割。人間側に居た頃も、そうやって先に立ち道を切り開いてきましたので」
アレンは人間の為にその力を使っていた頃を思い出し、胸に手を当てる。
そして。
「でも今は」
瞼を開け、その瞳に闇をたぎらせアレンは言い切った。
「俺は魔物側です。だから、魔物たちの為に俺が先に立って道を切り開きます」
宮殿内。
そこに染み渡る、アレンの意思のこもった声。
それを聞き、ガレアは頷く。
アレンの心。
その思いを理解して。
「先陣は勇者。その後に、我らが続く。剣聖よ。それで、良いか?」
「……」
クリスもまた、静かに頷く。
アレンの響いた声。
そこに込められたかつての勇者の意思。
それを尊重するようにして。
その皆の意。
それを受け、アレンは一人歩みを進める。
宮殿の外へと。
湖へと続く道をその瞳に捉えて。




