賢者の加護①
〜〜〜
「マーリン様。魔物たちの勢い。それが止まりません」
「ふーん、そっか」
「ふーん、そっか。ではありません。これは、人間にとって大きな後退。目前まで迫っていた世界平和。それが、一歩。いや、百歩は退いたかと」
「ふーん。そっか、そっか」
目の前のテーブル。そこに置かれた光り輝く水晶玉。
それに両手をかざし、マーリンは生返事を繰り返す。
意思持つ水晶玉。
そこから響く声。それに対して。
場所は、自分の工房。
所狭しと書物が積み上がったそこは、まさしく賢者の工房そのもの。
その中には、黒のローブを纏った賢者しか人間は居ない。
「それで。それが、人間たちが魔法を使えなくなった理由なの?」
「関係ないとは言い切れません。魔法が使えなくなったという声。それがあがったのは魔物たちの勢い。それが増した頃」
「ふーん。だとすれば、関係なくはないね」
「はい。関係なくはありません」
どこか楽しそうなマーリン。
それに水晶玉は淡々と応える。
「ぼくの加護。それはぼく自身にしかかけない。ってことは、今この世界で魔法が使えるのはこのぼく一人だけってことになるんだね」
「はい。そういうことになります」
賢者の加護。
それは魔力の有無に限らず魔法を使えるというもの。
「ということは」
響いた水晶玉の同意の声。
それにマーリンは瞳を輝かせる。
そして。
「とうとうこのぼくの時代が来たってことだね。ここからぼくが魔物たちを後退させたら……勇者に代わって勇者になれるかな?」
水晶玉は応える。
僅かに明滅し--
「勇者の所在。そして生死が不明の今。その可能性もゼロではありません」
それに、マーリンは微笑む。
そして、呟く。
その胸中で。
「勇者になることを夢見てはや3年。人目を避け、その機会を待っていた甲斐があったよ……とうとうこのぼくの出番。それがやってきた」
溢れる自信。
それを押し殺しながら。
〜〜〜
「ガレア様、そしてアレン様。次の目標はいかように?」
響くゴブリン参謀の声。
ずらっと並んだ魔物たち。
その前で、ガレアはアレンと共に思考を巡らせていた。
剣聖の宮殿。
そのかつてクリスが佇んでいた場所。
そこで、魔物たちとガレアは次なる目標に対し意見を交わしている。
「わたしとしては、ここから一番近い湖を」
「自分は鉱物資源がたくさんとれる採掘場が」
「いや、さっさと街へと進軍すべきだ」
「洞窟。そこにいきましょう」
ウンディーネをはじめとした魔物たち。
そして。
「きゅっきゅっ」
「ワオーン!!」
「……っ」
「〜♪」
言葉を発することのできないスライム、ケルベロス、ゴーレム。加えて賢さ0のリリスは我関せずといった雰囲気で戯れていた。
そこに響くガレアの声。
「アレン。お主の考えを聞かせてくれぬか?」
それに、アレンは応えた。
魔物たちを見渡し--
「どこでも大丈夫です」
そう、魔物たちを鼓舞する声を響かせて。