反転攻勢①
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「これまで勇者一行が魔物の手より奪還した街や村。そして洞窟や山や川や森。その数は既に平和であった頃に戻っております。このままいけば、数週間。いや数日で、世界は我ら人間の手に」
「うむ。流石、勇者だ。あやつがこちら側にある限り、我らの勝利は固い」
「その通り。資源の量も日に日に増え、我らの懐も潤うばかり」
魔王城より遥かに離れた王城。
そこにある絢爛豪華な玉座の間。
その闇とは無縁の場所に、王とその側近の声が響く。
「後はあの勇者の処遇。魔王無き後、あやつだけが我らの障害」
「その件については」
「うむ。奴の生まれ故郷。それを廃墟とし、村の者全てを磔の刑。それ全てを魔王の所業と称し、お主がもう少しはやく魔王を倒しておればと伝えれば」
「はい。あの正義感が強く責任も強い勇者なら、タダでは済まない。自らその命を絶つ可能性もあれば精神を病み……異常者となって牢獄にぶち込むことも可能かと」
「「はっはっはっ」」
王と側近。
その二人は目の前に広がる輝かしい未来に笑いを響かせる。
しかし、二人はまだ知らなかった。
勇者。
その存在が既に、魔王側になっているということを。
〜〜〜
「おッ、おい!! これはどういうことだ!!」
「い、いつになったら日がさすんだ!?」
響く焦燥の声。
それは村の門番の声。
時刻は既に朝の5時。
いつもなら夜明けによる日の光が差し込む時間。
しかし、空は未だ暗いまま。
それは見ての通り夜そのもの。
「これは嫌な予感がする」
「あぁッ、今すぐ戦闘態勢を整えろ!!」
「「はッ!!」」
声を響かせ、戦闘態勢を整えていく兵士たち。
その兵士たちの姿。
それを宿屋の窓から見つめるのは、寝巻き姿の聖女だった。
「なんだか騒がしいわね。まだ夜だっていうのに」
そんなマリアの声。
それに宿屋の主人は、なにも知らず声を発する。
「おい、マリア。いいからこっちに戻ってこいって。俺はまだま愚痴が聞きたいんだが?」
「いいですわよ。 やっぱり勇者様より、貴方のほうが男らしいですね」
「かわいい奴だな。ったく」
「ありがとうございます」
踵を返し、再び椅子へと向かうマリア。
テーブルを挟み、話す二人。
仲睦まじい、二人の雰囲気。
しかし、そこに。
「グォーンッ!!」
突如として響く、重々しい鳴き声。
二人の視線。
それが窓の外に向けられる。
果たしてそこには。
「ガルルル」
口から涎を垂らし、二人を威嚇する巨大なダークウルフの顔があった。