龍騎士⑤
そして、それが意味すること。
それは即ち。
目の前のアレン。
その力に抗う術を、ラグーンは失ったということだった。
「く、くそっ。こ、こうなりゃ」
眼前で振り上げられる、アレンの拳。
それを見つめ、ラグーンは懐に手を差し入れる。
そして、次の瞬間。
「腹がガラ空きだぜッ、ひゃっはっはっは!!」
と嗤い、ラグーンはアレンの腹にきらめく短剣の刃を突き立てたようとした。
腕の長さ分の至近距離。
そんな距離から、不意打ちで短刀を突き立てられ回避できるものなど居ない。
そうラグーンはタカを括っていた。
加えて、短刀の刃。
そこにはたっぷり毒が塗られている。
かすり傷でも、致命傷になる程の。
これで、アレンは死ぬ。
しかし、そのラグーンの思惑が現実になることはなかった。
なぜなら。
勇者の加護。
それは、ラグーンの想像を遥かに超えたものなのだから。
回避の加護。
反射速度の限界を超え、短刀を避け。
速さの加護。
己の拳のみに加護を付与した、アレン。
瞬きをし、汗を滲ませたラグーン。
「ば、馬鹿な」
と、声を漏らそうと口を開く時間。
それさえも、アレンはラグーンに与えなかった。
べきッ
ラグーンの顔面。
そこに叩き込まれる、アレンの闇を帯びた拳。
それを受け、拳の衝撃により後ろに吹っ飛ばされるラグーン。
そして、そのまま。
「ぐぎゃぁァァ!!」
と、叫び地上へと落下していくラグーン。
そのラグーンに向け、巨龍は咆哮。
大きく口を開け、巨大な火球を放つ。
神龍の加護。
それが消滅した人間。
それはドラゴンにとって、玩具以外の何ものでもない。
「くそっ、くそったれ!! ぐそッ、この俺がッ、このラグーン様がぁ!! ふざけろぉッ、ふざけ……ッがきごぎぎ!!」
巨大な火球。
それに飲み込まれ、声にならぬ悲鳴を残しラグーンは文字通り蒸発。
ラグーンの悲鳴の余韻。
それが収まり、アレンは感じた。
自らの身。
そこに、降り注ぐ神龍の加護。
その温かさを。
「神龍」
空を見上げ、アレンはその名を呟く。
そして、そのアレンの呟き。
それに応えるように、アレンを背にのせた巨龍は三度咆哮を響かせる。
まるで、アレンに寄り添うように。
そのどこか優しい咆哮。
アレンはその咆哮に応える。
ゆっくりとその場に片膝をつき、優しく巨龍の背を撫でながら。
「神龍さまですか?」
「……」
それに応えず、ゆったりと翼を揺らし巨龍は地へとくだっていく。
風が二人を撫でる。
アレンと、マリア。
そのかつての勇者と聖女。
そして、アレンは見つめる。
「……っ」
顔さえもあげず、未だ小刻みに震えるマリアの姿を。
しかし、すぐに目を逸らすアレン。
風に髪を揺らし、アレンは静かに地上を待つ。
その時。
遥か空の上から微かに咆哮が響く。
胸を抑え、アレンは瞼を閉じた。
己の胸の奥。
そこに、神龍の加護を感じながら。
読んでいただいて感謝です!!




