龍騎士④
「答えろ」
「……っ」
「てめぇに。価値はあるのか?」
再び響く、アレンの声。
その殺気。その威圧。
それにラグーンは指を鳴らそうとした。
汗を滲ませ、ごくりと喉を鳴らして。
刹那。
「呼ぶなら呼べ。一匹残らず、殲滅してやる」
一切の恐れ無き声音。それに彩られた声。
それを呟き、更に力を込めていくアレン。
目を見開き、一点にラグーンの顔を見据えて。
「あ、アレン」
「価値。利用価値。んなくだらねぇ理由で」
アレンの頭の中。
そこに蘇る、在りし日の故郷の姿。
「ソフィは、みんなは。人間らに壊された」
ぎりっ
「うぐっ」
浮き上がっていく、ラグーンの足。
それは、アレンが自身に筋力の加護を付与した結果。
自分より重いであろうラグーンの身体。
それを片手で宙に浮かせる等、アレンの加護だからこそできる行為。
さしもの、ラグーンも焦る。
「……っ」
まだあがる、自分の腕。
それをあげ、「こ、来い。ドラゴン共」と呟き、指を鳴らすラグーン。
ぱちんっ
と、染み渡る乾いた音。
それを聞き、ラグーンは三度、にやけた。
「こ、これで。下のお仲間さんたちは、全滅だ。は、ははは。殲滅? で、できるものならやってみろ」
アレンの手首。
ラグーンはそれを掴み--
「舐めるなよ、勇者。この俺を。神龍の加護を」
勝ち誇った表情を晒し、アレンを煽った。
「じ、直に大量のドラゴンがこの地に飛来する。魔物の手に落ちた剣聖の地。そ、それを全て」
だが、そこでラグーンは感じる。
いや、感じてしまった。
自らにかかっていた、神龍の加護。
それが、解かれていくのを。
同時に響くラグーンに従っていた巨龍の咆哮。
それは、ドラゴンを自在に操る力もまた消失したことを意味していた。
「な、んだと」
血の気を引かせ。
「こ、こい。ドラゴン共。し、従え。従え、巨龍。この俺に。このラグーン様に」
ラグーンの焦燥に満ちた声。
それがしかし、ドラゴンに届くことはない。
「グォーン!!」
咆哮し、その身を震わせるドラゴン。
だが、アレンは動じない。
風の加護。
それをかけている為、落ちることはない。
「く、くそっ。し、神龍さま。ど、どうして。このラグーンに再び加護をッ、目の前の勇者もどきと、その仲間たち!! そいつらを1匹残らず始末せねばなりません!! でなければッ、世界は闇に!!」
虚しく響く、ラグーンの叫び。
しかしそれが、遥か天高くの神龍に届くことはない。
ラグーン。
その歪んだ龍騎士。
それは、神龍に見限られる。
完全に。
それこそ、二度と加護など与えぬという意思と共に。