龍騎士③
果たして、そのラグーンの口から漏れた言葉。
それは、アレンの心を更に深く闇に染めた。
「ゴウメイ。奴の加護は、欲望。あの宿に泊まった連中。特に女に対してよく使ってたみてぇだ」
「欲望の、加護」
ラグーンの声。
それを反芻し、額を抑えるアレン。
そのアレンを見つめ、ラグーンは更に続けた。
「あ? 勇者の癖にそんなこともわからなかったのか? 奴の加護は、人の心に巣くう不満。それを肥大化させ、欲望の発散を促すモノ。不満が大きければ大きいほど、その加護は力を増す」
軋む、アレンの頭。
「不満がない人間なんてこの世に居ねぇからな。ある意味じゃ、一番タチの悪りぃ。あいつらしい、加護じゃねぇか。まっ、てめぇのパーティーメンバー共が勇者に対し、どでかい不満を持ってたってのは揺るぎねぇ事実だがな」
ぺらぺらと。
どこかアレンの反応を楽しむかのように、ラグーンは言葉を紡ぐ。
そしてトドメとばかりに。
「それとな。奴が死んだことぐらい、俺ぐらいの地位があれば容易く耳に入る」
にやける、ラグーン。
「まっ、これ以上のことはいずれわかるだろ。もっと言いてぇことはある。だが、俺からもうなにも話すことはねぇ。あぁ、後」
独り、「アレンっ、アレン。ごめんなさい。ごめんなさい」と、蹲って謝罪を続けるマリア。
その背に足を乗せる、ラグーン。
そして。
「この聖女にはまだ利用価値がある。そうあのお方は仰られた。だから、俺たちが回収したのさ。てめぇの生まれ故郷。それも利用価値があったならッ、壊滅は免れたかもしれねぇな!!」
利用価値。
その言葉に、アレンの目が見開かれる。
"「アレン。やだッ、わたしもアレンくんと一緒に」"
"「ぼくもっ、やだ。アレンといっしょに」"
涙で勇者を見送った、みんな。
それを--
利用価値があったなら、免れた?
「まっ、壊滅っつう結果。それでてめぇが死んでくれたなら……利用価値があったと再評価してやっても--」
よかったんだがな。
瞬間。
速度の加護。
それをかけ、ラグーンの眼前に移動するアレン。
そして。
「答えろ」
「あ?」
「てめぇに価値はあるのか?」
「あ? 価値? こいつと同じくらいあるに決まってんだろ」
吐き捨て。
マリアを踏みつける、ラグーン。
「で。なんだ、その目? まさか、俺とやろうってのか? 神龍の加護。それを受けた俺が指を鳴らせば、世界中からドラゴンが集まってくるぜ? いいのか? 下にはてめぇのお仲間さんたちがたくさん」
めきっ
「!?」
ラグーンの首。
それを掴む、アレンの手。
そしてラグーンを見据える、アレンの目。
そこには、殺意という名の闇が蠢いていた。




