女魔王②
そのアレンの姿。
それに、ガレアを含む魔物たちは勢いを無くす。
皆、戦意を喪失し戦闘態勢を解く。
だが、勇者は勇者。
一定の距離。
それを保ったまま、魔物たちはアレンを取り囲む。
その異様な空気。
その中で、ガレアは意を決し声を響かせる。
「アレン!!」
漆黒の剣。
それを腰から抜き、その刃先をアレンに向けるガレア。
「お主になにがあったかは知らぬ!! だがここに一人でやってきた以上ッ、タダでは帰さぬぞ!!」
響く、ガレアの魔王としての意思。
勇者は勇者。
いかに目の前のアレンに戦意はないとはいえ、おいそれと敵意を無くすわけにはいかない。
しかしガレアの手は震えていた。
勝ち目などない。
そんなことはわかっているのだから。
そんなガレアに、アレンは思わぬ行動をとる。
全ての装備。
それを解除し、無防備になるアレン。
そしてその場に片膝をつき--
「ガレア、話を聞いてほしい。勇者としてではなく、一人の人間として」
視線の先。
そこで震えるガレアに、アレンは頭を下げた。
「ムシがいいことはわかっている。今まで勇者として魔物たちを葬った罪。それが消えるとは思わない」
響く、アレンの声。
それに聞き入る、ガレアと魔物たち。
そして紡がれる、アレンの言葉。
「俺は人間というモノが嫌いになった」
アレンの脳内。
そこに蘇る、宿屋での出来事。
「今まであんなモノたちの為にこの力を使っていたと考えると虫酸が走るんだ。全てをわかってくれとは言わない。だが、これだけは信じてほしい」
顔をあげ、アレンは言い切る。
その両目。
そこから涙を流し--
「俺は信じていたモノ全てに裏切られた」
"「最後の最後まであの村の連中ッ、勇者の名前を呼んでたらしいぞ!! ぎゃははは!!」"
痛む胸。
それをおさえ、アレンは声を響かせた。
そのアレンの涙と声。
その今まで見たことのない、勇者の涙。
それに、ガレアの震えが止まる。
そしてその剣を腰に戻し--
「皆のモノ。道を開けよ」
そう声を響かせ、アレンの元へと歩み寄るガレア。
ガレアの声。
それに魔物たちは道を開け、ガレアの前にアレンの元へと続く道をつくる。
そして、アレンの元。
そこに辿り着き、ガレアは同じように膝をつく。
「お主になにがあったかはわからぬ」
「……っ」
「言ったであろう、アレン」
アレンの涙。
それを指で拭い、ガレアは優しく続けた。
「人間というものはお主が守るべき存在ではない、と……皆のモノ、これより打って出る。勇者の力。それはもはやこちら側にあるのだからな」
「「かしこまりました!!」」
ガレアの優しさ。
そして魔族たちの心の広さ。
それに、アレンもまた決意する。
この力。
それを、闇の為に使うということを。