ゴウメイ②
本来なら即死。
だが、ガレアの継続回復のおかげでゴウメイは死ぬことはない。
三度、振り上げられるアレンの拳。
それを見つめ、ゴウメイは叫ぶ。
「やめろぉッ、アレン!! やめてくれって!!」
「筋力の加護を付与」
淡々と自身に加護を付与する、アレン。
その顔。
それは、目の前の命を奪おうとする処刑人そのもの。
「話ッ、話を!! おッ、俺がどうしてあんなことをしたかッ、知りたくねぇのか!?」
もがく、ゴウメイ。
「こ、このまま。俺をやっちまったらッ、大変なことになっちまうぜ!? いいのかよ!?」
なんとか生きながらえようとし、ゴウメイは必死に声を張り上げ続ける。
だが、アレンの表情は一切変わらない。
いや、むしろ。
「勇者の加護が二つ」
筋力の加護。
それを重ねがけをし、己の筋力を倍にするアレン。
その、一欠片も情け容赦を感じさせないアレンの姿。
それに。
「ひぃっ」
短く悲鳴を漏らし。
しかし、ゴウメイは吠える。
なぜか、苛立ち。
「よ、弱い者いじめなんてして楽しいのか!? そ、そんなことをしてなにになるって言うんだ!? 元はと言えばッ、てめぇがうじうじしてっから悪いんだろ!?」
どうせ死ぬ。
そんな思いで、ゴウメイはアレンを責め続けた。
だが、今のアレンの耳。
それには、ただのノイズにしか聞こえない。
「--ッ」
目を見開き、なにかを叫んでいる人間。
今のアレンの目。
そこにうつるのは、人間の皮を被ったナニカ。
俺は、こんなモノを守ろうとしていたのか?
勇者として。こんな、モノを。
なにも言わず。
拳を振り上げたまま制止したアレン。
それをゴウメイは、自分の言葉のおかげだと勘違いしてしまう。
にやけ。
「そ、そうだ。それでいい。それでいいんだ、アレン。さ、さすが勇者様だぜ。ま、まだ。人としての良心が残ってたんだな。あ、安心したぜ」
ゴウメイは安堵。
そして。
「よ、よし。次はこの手を離してくれ。そそそ。そうすりゃ、真実を話してやるからよ」
そんな声を発し--
だが、次の瞬間。
「勇者の加護が三つ」
「!?」
筋力の加護。
それが更に重ねがけされ、アレンの筋力が三倍になる。
それに、ゴウメイは絶叫。
「やッ、やめろぉ!! 落ち着けってッ、アレン!!」
しかし、アレンは止まらない。
いや、止まるはずもなかった。
轟く、拳の打ち付ける音。
響く、ゴウメイの潰れた嗚咽。
その光景。
それにマリアはその場に崩れ落ちる。
目から光を無くし、その身を震わせながら。
だが、そのマリアにかかるクリスの冷徹な声。
「聖女。これが、お前の選んだ結末だ。その汚れ切った身と心をもって、しかと見よ。己の犯した所業。それを心の底から悔いながら」