ゴウメイ①
「現れたなッ、人間!!」
真っ先に響く、フェアリーの声。
勢いよく椅子から飛び上がり、マリアとゴウメイの周りを旋回するフェアリー。
「よく見るとお前ッ、聖女だな!? それにお前は誰だ?」
マリアの怯え顔。
そしてゴウメイの苦悶顔。
それを一瞥し、フェアリーは疑問を呈す。
そんなフェアリーの疑問。
それに応えるのは、ガレア。
「その男の名はゴウメイ。我らの城。その近隣の村で宿屋を営んでいた者」
ゴミを見るような眼差しをもって、ガレアはゴウメイを見据える。
そのガレアの表情に浮かぶは、混じりのない純粋な嫌悪だった。
だが、敢えて。
「痛みで意識が飛ばぬよう継続回復をかけておく。これですぐには、死ぬことはない」
ゴウメイに継続回復をかけ、すぐに事切れないようにするガレア。
そんなガレアと行動と表情。
そこからフェアリーは察する。
「わかりました、ガレア様。この男はゴミにも劣るゴミ。つまり、人間の卑しい欲。それを肥溜めのように凝縮したゴミ以上のゴミと言いたいのですね?」
ぺっと。
ゴウメイに唾を吐きかける、フェアリー。
そのフェアリーに、ゴウメイは懇願。
「な、なぁ小さな妖精さん」
「なんだ、糞」
ゴウメイを糞呼ばわりし、フェアリーは蔑みの声を響かせる。
「あまり喋るな。臭いから」
「そ、そんなこと言わないで。な? お、俺を生かしてくれたら……魔物たちにとってもメリットが--」
あるからよ。
そう言い終える前に。
風を置き去りにし--
速度の加護。
それをかけた、アレンがゴウメイの眼前に現れた。
だが、ゴウメイはなおも懇願を続けようとした。
「ゆ、勇者様。たッ、頼む!! 俺の話を聞いてくれ!! ほ、ほらこの通り」
後から吹き抜ける風。
それに髪を揺らし、アレンはゴウメイを見据える。
その眼差し。
そこに宿るは、勇者の光ではない。
あるのは、闇。
どこまでも深く、そして暗いアレンの負の感情。
握りしめられる、アレンの拳。
ゴウメイの胸ぐら。
それを掴み--
「まッ、待てってアレン!! はッ、話を!!」
だが、アレンは止まらない。
一切の言葉。
一切の情け。
一切の容赦。
それをかけず、闇を纏った拳。
それを全力で、アレンはゴウメイの顔面に叩き込む。
「へぶぅッ」
揺れる、大地。
広がる衝撃。
それは文字通り、情け容赦もないアレンの最初の一撃だった。




