進撃③
「お、おい。あの姿」
「ま、間違いない。あの姿。それに、あの見た目」
「り、リリス」
現れた、かつての魔法使い。
なにがあったのかは知らない。
だが、あの見た目。
そして、闇に埋もれた赤の双眼。
それに、宮殿内に居る者全ては息を飲む。
その人々を見渡し、リリスは再び鼻歌を響かせる。
「〜〜♪」
ウンディーネによる、治癒。
それはただの治癒ではない。
ガレアの命。
"「この人間に治癒を。そして我らの駒として使える状態。それにしておいてくれ」"
それを忠実にウンディーネは遂行しただけだった。
あくまで、魔族は魔族。
ただ普通に、人間を治癒するはずもない。
「くッ、くそっ。くそっ、たれ」
苦悶の表情。
それをたたえる、ゴウメイ。
そんなゴウメイの姿。
それを見つめ、マリアはカチカチと歯を鳴らす。
そのマリアの姿。
窮鼠のような、恐怖に歪んだ表情。
それに、リリスは微笑む。
「私、リリス。あなたはだれ?」
「……っ」
「私は、リリス。あなたは、だれ?」
闇に堕ちたリリス。
それは、マリアの知るリリスではない。
「わたしの命。それは勇者様と魔王様の為にある。私、リリスの。いの、ちは」
しかし、それにマリアは叫ぶ。
「わたしッ、わたしは悪くない!! 悪いのはッ、全部勇者!! い、一時の気の迷い。そそそ。それだけで人間たちを裏切るなんてッ、どうかしてる!!」
闇に堕ちたリリス。
それを前に、マリアは自暴自棄になる。
「そッ、そうよ!! わたしはひとつも悪くない!! わ、わたしを愛していたのならッ、さっさと抱いてくれればよかったのに!! わたしだって一人の女なの!! よ、欲望のひとつやふたつあったっておかしくはないでしょ!?」
叫び、自己弁護を繰り返すマリア。
その姿。
そこには、かつて勇者が愛した聖女の姿は欠片もなかった。
「リリス。あ、貴女だって欲望に流されたじゃない。だ、だから。ね? 闇に堕ちたからって、その本性は変わってないわよね? ね? ほ、ほらはやく。闇の力を使ってわたしたちを安全な場所に。ね?」
途端。
「うんっ。いいよ」
賢さ0のリリス。
その闇の力。
それをもって発動される、転移。
それに、ほくそ笑む二人。
しかし。
その二人が転移した場所。
そこは--
「えっ?」
目を見開く、マリアと。
「……っ」
息を飲む、ゴウメイ。
大量の魔物たちの軍勢。
その真正面にして、アレンとガレア。そしてクリスの視線。
それが集中する、場所だった。
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