剣聖③
「アレン」
勇者の名。
それを呟き、クリスは己の胸に手を当てた。
そして、なにかを決意した眼差し。
それをもって未だ薄暗い空を見つめる、クリス。
霧散する、剣聖の加護。
眩い光。
それに包まれていた、クリスの身。
それが元に戻り、クリスの黒髪が微かに風に揺れる。
その風。
それはまるで、変わりゆく剣聖の心を優しく撫でているかのようだった。
「剣聖が守るべきはこの世界か。果たして、人間か」
紡がれる、クリスの声。
そんな"世界"と"人間"を対比させた、クリスの言葉。
己の腰の鞘。
そこに刺さった剣の柄。
それに手をかけ、クリスは瞼を閉じる。
既に、結論は出ていた。
「剣聖の加護。それを勇者と」
声を響かせ。
そして、瞼を開け--
「魔王。そして、魔物たちに」
ガレアを見据え。
更に魔物たちにも加護を付与するクリス。
刹那。
アレンとガレア。
二人に、剣聖の加護がかかる。
眩い光。
それが二人を包み、剣聖の加護を得る二人。
それは、即ち。
二人の剣術の段階。
それが、一段階あがったことを意味していた。
クリスは、続ける。
「勇者、魔王。剣をとれ。これより俺は人間ではなく、この世界の為に」
その剣聖の思い。
それを受け、腰から剣を抜くアレンとガレア。
「クリスさん」
「剣聖」
クリスの名。
それを呟く、二人。
そして、振るわれる二人の剣。
風を切る二つの剣の音。
それは、クリスの翻った思い。
それが決して間違ってなどいないことを表していた。
〜〜〜
アレンたちがクリスの領地に進み、はや数十分。
魔物たちと人間は、ガレアの念話を今か今かと待っていた。
大きな焚き火。
それを囲んで。
「おいッ、人間!!」
「はいッ、フェアリー様!!」
「お前の頭は座り心地がいいなッ、よかろう!! お前の頭はこれより椅子として使ってやる!!」
「あ、ありがとうございます」
一人の女。
その頭に座り、足を組むフェアリー。
「光栄だと思えッ、わかったな!?」
「はッ、はいぃ!!」
「よろしいッ、いい返事だ!! 少しでも嫌な顔をしたらこの頭をわたしの便所にしてやるからな!!」
「ひっ、ひぃ」
女を恫喝し。
「ふんっ、オマエたちは我らの奴隷。理解しておけよ」
フェアリーは満足げに頷く。
だが、そこに。
「ふぇッ、フェアリーさん!!」
「わ、我らの剣の腕!! それが一瞬にして上達しました!!」
「今までは力任せに振り回していたのみッ、しかし今や!!」
歓喜の声。
それを響かせ、ゴブリン剣士をはじめ剣を装備した魔物たちはフェアリーの眼前で剣技を披露していく。
それにフェアリーは目を見開き、感嘆。
「す、すげぇな!! こ、これも勇者の加護なのか!?」
瞳を輝かせ、フェアリーはゴブリン剣士たちの頭上を飛び交う。
そして、更に。
魔物たちの頭の中。
そこに、ガレアの念話が届く。
「皆の者、進軍を開始せよ」
それに、魔物たちは雄叫びをあげ怒涛の勢いで剣聖の領地に進軍を開始したのであった。
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